I hate you 性格は穏やかで、頭も良い。優柔不断な迷い癖が玉に傷だが、同級生にも後輩にも慕われて、くのいちにも割と人気がある。不破雷蔵は、そんな男だ。 「なまえさん」 「・・・何か用?」 私は、不破雷蔵が苦手だ。 「本の返却期限、今日までだから・・・一応伝えておこうと思って」 「そう」 「お節介だったかな・・・あはは」 不破雷蔵の笑顔は、気持ちが悪い。張り付いたような笑顔はあまり崩れる事がなく、その裏側に何を抱えているのかが読めない。忍者としてはいい事かもしれないが、同級生としては、怖い。 「別に・・・昼食の後、返しに行くから」 「そっか、期限が過ぎると中在家先輩が催促に来るから・・・」 「わかった、私、もう行かないと」 これ以上は、と彼に背を向けくのいち教室に帰ろうとした時だった。一瞬のうちに手を取られ、引き寄せ壁に追い込まれる。ギリギリと手首に力を入れられ、動かす事が出来なかった。 「なまえさん」 「な、に」 「もしかして、僕の事が嫌い?」 「そんなんじゃ・・・」 「そうかな?」 ぐっと近付いて私の目を見る。耐え切れずに逸らすと、やっぱり、と笑った。いつもの笑顔、あの気持ちの悪い張り付いた笑顔。 「何でかな・・・三郎にはそんな顔しないよね?仲良く話してるの、見た事あるし」 彼は首を傾げる。私は心の中でお前の顔を借りた鉢屋三郎の方が人間らしい顔をする、と彼を罵った。同じ不破雷蔵の顔でも、お前の笑顔とは違う、と。あの意地悪く笑う顔の方が、本物だ。 「・・・っ、痛い」 「あぁ、ごめんね!抵抗されるかと思って」 彼が私の手を離す。自由になった手を見ると握られていた手首には少し跡がついていた。 「貴方は、」 「え?」 「偽物だ・・・笑顔も、困った顔や怒った顔、全部」 「・・・そんなこと、ないよ?」 そう言って笑う不破雷蔵。仮面を被っている、とでも言えばいいのか。 「気持ち悪い・・・っ」 「・・・」 「・・・聞きたかったのは、それだけ?それなら、私は」 今度こそ教室に帰ろうと彼の横を通り過ぎようとした時、私はまた、彼に捕らえられる。 「・・・ふふっ」 「不破君・・・?」 「ふふ、ははっ、あはははははは・・・ッ!」 高笑いをする不破雷蔵。その笑い声には少し狂気が混じり、恐ろしく感じた。それから私をじっと見て、歪んだ笑顔を見せる。 「前から思ってたんだ・・・なまえさんは、僕を怖がってるって・・・」 「・・・」 「でも、嬉しかった・・・本当の僕に気付いてくれたのは、君だけだから」 「・・・そう」 「なまえさんは頭が良いよね、最初から疑って・・・まさに忍者、いや、くのいちか」 「それで、どうするの」 「え?」 私をどうするの、と聞くと、彼はまた口を歪ませ笑う。あぁ、ずいぶんと人間らしくなった。ついさっきまでそこにいた不破雷蔵なんか、いなかったみたいに。 「・・・知ってた?僕はね、君が好きだったんだ」 「・・・」 「いつも会う度に不安そうな顔でこっちを見て、知らない振りをしているくせに様子を伺って来る・・・」 「・・・」 「そんな君が、可愛くて・・・」 悪趣味ですねと言ってやるとフッと鼻で笑う。 「君もね、なまえさん」 そう言って不破雷蔵は私に深く口づけをした。 End ---- え? 2014/04/17 宙 |