笑顔

「マネージャーのみょうじなまえちゃん」

「よろしく、お願いします・・・」

ひどく怯えながら挨拶したのは、もう3カ月前の事。何でこんなことになったんだろう。何で、よく知りもしない自転車競技部の部室で丁寧に頭下げて挨拶してたんだろう。何で、マネージャーなんて。

「なぁ、何でこんなことも出来へんのぉ?」

「ごめんなさい・・・」

なまえちゃんはどんくさいなぁ、と俯く私の顔を覗き込みながら御堂筋翔はにっこりと笑う。他の人の笑顔とは違う彼のそれは、私をひどく恐怖させる。彼が目の前にいるだけで全身が震える。鳥肌が、汗が止まらない。

「辞めたい?なぁ、もうマネージャー辞めたい?」

「・・・っ」

「でもなまえちゃんの意思はどうでもええ。それにばらされたら困るもんなぁ?」

面白そうに言う御堂筋翔の言葉に、私はきつく拳を握りしめた。今にも零れそうな涙を下唇を噛んで必死に耐える。

「見ぃーちゃった」

そう言いながら彼は私に話しかけた。同じクラスで隣の席の御堂筋翔に話しかけられたのは、それが初めてだった。何を、と聞けば彼はカンニング、と笑い、私は青ざめた。そのせいで私は、断る権利はない、と無理矢理マネージャーにさせられた。

「成績上位のみょうじなまえちゃんがカンニングしてたなんて知られたら、先生もお友達もびっくりするやろなぁ。信用がた落ちや」

なぁ、と笑う彼を睨み付けてやるとキモ、とまた笑った。下がり続ける成績に焦り、追い詰められてカンニングという行為に陥った。最悪の行為で、最悪の奴に見つかった。弁解の余地もなく、私は彼の言う通りにするしかなかった。

「でも、ボクはなまえちゃんが辞めて、カンニングの事ばらしても、なまえちゃんの事離すつもりないけどね」

「ひっ・・・!」

御堂筋翔が立ち上がり、私を上から見下ろす。思わず息をのみ腕で頭を庇った。怖い、怖い怖い怖い。私よりも大分背の高い彼に見下ろされていると、押し潰されそうな威圧感が私を襲う。彼は彼の言葉通り、私を離すつもりなどないのだ。私がカンニングをばらされてもいいと開き直ったとしても、きっと笑顔で「関係ない」と言うだろう。震えが止まらない、もう、駄目だ。瞬きと同時に、我慢していた涙が頬を伝い、床に落ちる。

「ん?」

「っ、・・・う」

「泣いてるん?なまえちゃん」

「いっ、・・・ひっ」

「ボク、涙は嫌いやねん」

御堂筋翔の顔が私にぐい、と近づく。そして長い舌でべろりと私の頬を舐めた。

「キモイ、キモイでその顔」

そう言って御堂筋翔は、にっこりと笑う。


end
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御堂筋君好きですよ。


2014/05/19 宙

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