笹舟

「この私が忍術学園で・・・という訳で私は・・・さらに!私の輪子の・・・」

さっきからずっとしゃべっている。いい加減口が疲れないのだろうか。私は滝夜叉丸君の話を適当に聞き流しながら、笹の葉で笹舟を作っていた。早く終わらないかな、とため息を漏らし、滝夜叉丸君を見ると彼は顔を輝かせいかに自分が美しい忍者であるかを話していた。彼は相当自分が好きらしい。私なんて見もしないで高らかに自慢話をする。これはまだまだ終わりそうにない、と五つ目の笹舟を岩の上に置いて私は腰を上げた。

「滝夜叉丸君、滝夜叉丸君」

「そして・・・こら、なまえ!私の話を、ん?笹舟か?」

岩の上に置いた笹舟を指差して私は頷く。上手に出来た、と滝夜叉丸君に言うと彼は話を聞いていなかったのか、と怒った。正直に頷くと彼はため息をついて私の作った笹舟を手に取った。

「私の話は笹舟作りよりは面白いし為になると思うのだが」

「そうだね。面白くはないけど、戦輪のコツの話は為になるよ」

「・・・」

「ねぇ、滝夜叉丸君。これ、川に流そうよ」

彼は私の提案に首を傾げた。川なんて忍術学園の中にはないぞ、と真面目な彼らしくそう言って。

「近くにあるじゃない、忍術学園の外の、少し歩いた場所」

「わざわざ外出届けを出してまでしたいことか?」

「ちょっと出るだけだよ、ね?」

「いーや、この私の先生方からの信頼を裏切るわけにはいかない!それに、すぐに小松田さんに見つかる」

反対する滝夜叉丸君に向かって頬を膨らませて見せる。滝夜叉丸君は駄目だと言って私の頭を軽く叩いた。

「せっかく作ったのに」

「・・・仕方ない」

「え!」

「池に浮かべよう、それならいいか?」

ちょっと、いや、大分不満だか私は彼の提案に頷いた。忍術学園の敷地内の池に一つ、笹舟を浮かべる。

「あ、沈んだ」

「なまえ、作り方が少し雑だ」

「えー?」

「ほら、ここから水が・・・試しにこっちも浮かべてみるか?」

「うん」

滝夜叉丸君の手から笹舟を貰い、池に浮かべる。しばらくゆらゆらと水面を泳ぎ、そして、沈む。

「ほら見ろ」

「うーん、次!」

「・・・あ」

「早かったねぇ・・・あと二つ?」

「そうだな」

滝夜叉丸君が一つ、笹舟を手に取る。私はもう一方を取り、じっとその笹舟を見つめた。

「ね、勝負しよう」

「勝負?」

「同時に笹舟を浮かべて、どっちが長く浮いていられるか。どう?」

滝夜叉丸君にそう言うと彼は少し考えて良いだろう、と頷いた。せーの、とかけ声をかけ、同時に手を離す。ぷか、と笹舟が池に浮く。

「今度のはずっと浮いてるね、どっちも」

「そうだな。だが、この平滝夜叉丸が勝負に負けるなど・・・」

「あ」

「あ」

ぱしゃん、と池の鯉が跳ね、滝夜叉丸君が浮かべた笹舟が沈んだ。口を開け池を呆然と見る滝夜叉丸君に、私はこっそりと笑った。

「じゃあ、敗者は勝者の願いを一個叶えてあげるって事で」

「なっ!そんなこと言ってなかっただろう!」

「勝負なんだから、負けた方が何かしないとー」

「そんな遅出し・・・」

「いいから!滝夜叉丸君っ」

ぐいっと彼を引っ張って、私は滝夜叉丸君の頬に口づけた。

「っな!?」

「私を、好きになって」

そう言うと滝夜叉丸君は頬に手を当て、顔を赤く染めた。


end
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笹の花言葉「ささやかな幸せ」


2014/04/22 宙

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