触れて

怖くて手を払いのけた。俺よりも大きい身体を思い切り突き飛ばした。意外にも簡単に離れていった事に驚いて顔を上げると、とても悲しそうに、彼は顔を歪めていた。

「もう、君の嫌がる事はしないよ」

そう言って無理矢理微笑んだ表情に、胸が痛んだ。そんな資格は持っていないのに。嫌だと言って暖かい手を払いのけたのは俺だ。やめろと包み混んでくれた身体を突き飛ばしたのは、紛れも無く、俺自身。なのに、胸はずっと痛み続けた。

「おはよう・・・ジャン」

「っ、お、おはよう、ベルトルト」

「ごめん、顔を洗いに来たんだ」

「あぁ・・・悪い、今退く」

後ろからぬっと現れたベルトルトに驚く。戸惑ったのがばれてしまったかもしれない。他人に興味を示さないくせに、他人の気持ちには敏感な奴だ。俺の気持ちなんて、きっとすぐに気付く。

「どうしたの?」

「え」

「行かないの?もうすぐ朝食の時間だよ」

「あ、あぁ・・・そうだな」

「・・・ジャン」

名前を呼ばれてビクリと肩を震わせた。さすがにこれはまずかった。恐る恐るベルトルトを見ると、苦しそうな微笑みを見せた。

「あんまり・・・怯えないで欲しいんだけど」

「あ・・・」

「ジャンの嫌がる事はしないから・・・」

俺とベルトルトは特別な仲だ。どうなってこういう関係になったか忘れてしまったが、恋人という友人よりも特別な仲だった。抱きしめたり、キスをしたり触れ合ったり。けれど、どうしても先にはいけなくて。

「なんなら、しばらく僕は君から離れているよ」

「ベルトルト」

「それなら、安心だろう?」

俺の首筋に舌を這わせ、直接肌を滑る手に怖くなった。全部、喰われてしまうみたいで。

「先に、行くよ」

あんな顔させたくなかった。今にも泣きそうな顔で、無理矢理笑って。

「・・・べ、ベルトルト!」

「・・・何?」

「あ・・・なんつーか、その」

「謝るの?」

「違う」

「そうだよね・・・謝られたら、僕はジャンに触れる事が出来なくなる」

もう既に、怖いのに、とベルトルトが漏らした。俺はベルトルトに駆け寄り、その手を握る。

「・・・大丈夫だ、だから」

「ジャン・・・」

「お前も、怖がるな」

「っ、ジャン!」

握った手を引き寄せられて、ベルトルトの胸に抱かれた。ぎゅっと力を込めて、俺の耳元で何度も名前を呼ぶ。

「ジャン、キスしたい」

「あぁ」

目をつむるとベルトルトの手が頬を撫で、口付けられる。舌で唇を舐められ口を開けると、ベルトルトの舌が滑り込む。くちゅ、と唾液の絡む音が聞こえ、糸を引きながら唇が離れた。

「朝食は、食べなくてもいい?」

「・・・仕方ねぇな」

そう言って俺達はここがどこかも忘れ、また唇を寄せる。

「ジャン、愛してる」

俺はその暖かい手で、触れて欲しいと、ベルトルトの身体を抱き締めた。


end
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2014/04/17

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