ジャン



「ただいま…って、何だよこれ!?」

アパートのドアを開け目に飛び込んで来たのは脱ぎ捨てられた衣服。それからコンビニの袋、それに入っていたであろうアイスの包み紙。レシートが玄関で乱雑に脱がれたピンク色のパンプスの横に落ちていた。俺はそれらを一つ一つ拾いながら、廊下を進み奥の部屋のドアを開けた。

「…なんつー格好してんだ」

「うんむ……む」

「おい、起きろ、なまえ!」

「む…ん、ジャン…?」

「おう」

床で俯せになって寝ている彼女は同居人であり恋人だ。なまえは目をこすりながら起き上がる。

「飯食ったか?」

「ううん…今何時?」

「11時…まさか大学から帰って今まで寝てたのか?」

「うん」

なまえがコクリと頷く。眠くて、と言ってクシャミを一つし、寒い、とぎゅっと身を縮ませた。俺はため息をつきながら着ていたパーカーをなまえに羽織らせる。

「そんな格好してっからだろ…服、脱ぎっぱなしだしよぉ」

「だって昼は暑かったでしょ?まだ春なのに夏みたいで」

「だからって…」

「ジャン、お腹減ったぁ」

「……」

人の話を聞け、と軽く頭を叩く。しかしなまえはそんなことお構いなしに「お腹減った」と俺に訴える。俺は冷蔵庫から昨日の残りを出して、電子レンジで温めた。バイト先のコンビニからもらってきた弁当は一つ。仕方ないかとまたため息をついてなまえに差し出した。

「待って待って、半分こする」

「いいって、俺は休憩の時に少し食ったし」

「ダメだよ、疲れてるんでしょ?半分こ!」

そう言ってなまえは弁当の飯を箸で半分にし、それから他のおかずも半分ずつ分けた。いただきます、となまえが食べはじめる。

「あ、ジャン、アイスあるからね」

「あぁ…」

「眠い?」

「ん、いや…」

首を傾げこちらを見るなまえ。俺は何でこいつと付き合って同棲までしているのかといつも思う。いろいろ考えて、結局いつも同じ結論に行き着くのだが。

「明日は講義何時からだ?」

「えっと…午後から、1時だよ」

「1時か…俺は先に出るから、ちゃんと昼飯食えよ」

「うん」

「…用意はしていくから」

「うん、ありがとう」

「パンだけは自分で焼け」

「はぁい」

返事をしながら嬉しそうに笑い、箸を投げ出して俺の腹に手を回しにくっつくなまえ。箸でから揚げをつまんだまま動けない俺は、なまえの為すがままだ。グリグリと頭を俺に押し付け、なまえは声をだして笑った。

「私ジャンがいないと生きてけないね」

「…当たり前だ」

「嬉しいーっ」

「あのなぁ…ちょっとは自分で動け」

「動いた結果、ジャンに怒られるじゃん」

「……」

「でしょ?」

そういえば以前に腹が減ったと言うなまえに自分で料理しろと言った事がある。俺の分まで作ってくれたのはいいが、キッチンはぐちゃぐちゃ、皿は割る、料理自体もだいたい水っぽいか焦げているかだった。それを思い出してまたため息。

「ジャンー、うへへっ」

「うへへって…可愛くねぇな」

「私は可愛くなくていいよ、ジャンが可愛いもん」

「気持ち悪い事を言うな、馬鹿」

「ジャンー」

「っんだよ…」

「眠い」

そう言ってゴロリと俺の膝を枕にするなまえ。俺が何か言う前に、寝息を立てすやすやと寝はじめた。

「ったく…」

めんどくさい、と思う事はあっても、結局俺は、なまえと別れられないでいる。好きという感情もある。それ以上に俺以外にこいつを支えてやれるやつはいないと思うからだった。それも、愛なのかもしれないが。

「ハッ…」

俺らしくない、と一人笑う。眠るなまえの頭を撫でながら、それでもいいかと四回目のため息をついた。


End
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同棲シリーズ、第二弾。
ジャン誕生の日に書きました。


2014/04/07 宙

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