#矢印

「悪い・・・俺は・・・」

矢印は、いつだって一方通行だ。一度だってこちらを向いたことなどない。でもいつか、こちらを向いてくれるような気がしていた。それなのに、彼の矢印は別の方向を指していた。

「アァ?何で巻島が寮にいんだよ」

「あ、荒北」

「巻ちゃんは俺に会いに来たのだ!先程山へ走りに行ってだな」

「へぇ」

箱根に遊びに来た巻ちゃんを寮に呼び、談話スペースで話をしていると、チームメイトである荒北が入ってくる。荒北は自販機で飲み物を買い、そのまま巻ちゃんの横の椅子に座った。巻ちゃんが、少しだけ反応した。

「わざわざ休みの日に大変だなぁ、巻島」

「別に・・・たいした距離じゃないっショ」

「どうせまたこいつがしつこく誘ったんだろォ?」

「なっ!それは違うぞ荒北!今回は巻ちゃんから俺に会いに来てくれたのだ!」

荒北を指差して自慢気にそう話すと、荒北は巻ちゃんを見ながら「珍しい」と言った。巻ちゃんは「別に東堂に会いに来たわけじゃない」と荒北から顔を逸らしながら答える。髪の毛に隠れた耳が、赤くなっていた。荒北が入ってきてから、巻ちゃんは俺を見ない。顔を逸らしながらも、目は荒北を見ては恥ずかしそうに伏せている。

「あ、福チャン」

談話スペースから福を見つけたらしい荒北が立ち上がる。そのまま「じゃあな」と言って談話スペースから出ていった。巻ちゃんは、荒北が出ていった方向をじっと見つめていた。というよりも、そこから見える福と荒北を見ている。巻ちゃんは、荒北の事が好きなのだ。ずっとライバルとして競いあって、荒北よりも過ごした時間は多いのに、巻ちゃんの矢印は、俺ではなく荒北に向いた。

「・・・好きだ、巻ちゃん」

でも、矢印は、いつだって一方通行。

「いきなりなんショ・・・・東堂」

「俺は巻ちゃんが好きだ」

「・・・悪い、俺は、」

「っ、報われない!巻ちゃんの気持ちは、報われないんだ!」

「わかってるっショ・・・」

「だったら、俺にしろよ!俺は巻ちゃんが好きだ、ずっと、ずっと前から」

俺も、巻ちゃんも、矢印が振り向くことはない。

「それでも俺は・・・お前の気持ちには答えられない」

「・・・っ、なんで、何でだ巻ちゃん!」

何で、俺じゃない。常に巻ちゃんの横に並んでいた。巻ちゃんが、振り向くと信じて、ずっと想って来たのに。

「振り向けよ、振り向いてくれよ・・・巻ちゃん」

「悪いな、東堂」

振り向いた巻ちゃんは、いつもの顔で笑っていた。


end
----
東→巻→荒→福が切なすぎて大好きです。報われない恋万歳。


2014/06/16 宙

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -