不安を抱きしめ



口は悪いけれど、成績も良く頼りになる彼の周りには、常に人がいた。彼を慕う友人、彼と喧嘩する友人、彼を苦手だと言う友人もいるが、そういう友人達も、決して彼を嫌いだと言って離れたりしない。僕と彼は他の友人よりも少し特別な関係で、つまり恋人なのだけど、特別だからといって、安心などしていられなかった。彼と友人が一緒にいると、胸の奥がギリギリと痛くなる。腹の底からドロドロと黒い感情が溢れ出す。

「お疲れ様、ジャン」

「おぉ、ベルトルトか…お疲れ」

訓練後、顔を洗っていたジャンに話しかける。ジャンは顔を拭きながらこちらを振り返った。

「飯行かねぇのか、コニーやサシャに全部食われちまうぞ」

「うん…でも、その前に」

「あ?」

「だから…その」

えっと、と言い淀んでいるとジャンが気がついたように「あぁ」と言った。それから「仕方ねぇな」とため息をついて僕に近付く。

「…ジャン」

「ん…っ」

彼に触れたくてしかたない。不安を紛らわすように僕はジャンにキスをして、抱きしめる。深くなるキスに体を離そうともがくジャンを気付かない振りしてもっとキスをした。首筋にキスをして、軽く噛み付く。びくりと震える彼の体が愛しくてたまらない。

「ジャン…っ」

「っ、ま…て、ベルトルト、待っ……待ってっつってんだろ!」

「うわっ!」

ジャンの大きな声に驚き顔を上げる。ジャンは肩で息をしながら僕を睨みつけた。

「てめぇ、ここでやる気か?誰かに見られたらどうすんだ!?」

「う、ごめん…」

「はぁ…行こうぜ、マジで俺達の分が無くなる」

「…あ、待ってジャン」

「何だよ…俺は食いっぱぐれるのはごめんだぜ」

「その…行って欲しくないんだ」

「はぁ?」

ジャンの手を掴み、止めた。眉間にシワを寄せ怒った表情のジャンは意味がわからないと僕に言う。

「皆のところに、行かないで欲しい」

「…何で」

「ジャンは…皆と仲が良いから」

「んなことねぇだろ」

「そんなこと、あるよ」

掴んだ手にぎゅっと力を入れる。ジャンは一瞬掴まれている手を見て、僕の顔を見る。きっと僕は情けない顔をしているんだろうな。

「皆といるジャンを見ると、僕は、どうにかなってしまいそうで」

「ベルトルト」

「ジャンが、僕から離れてしまうんじゃないかって…」

「しっかりしろ、ベルトルト!」

「…いたっ」

ジャンが空いている手で軽く僕の頭を叩いた。

「何不安がってんのか知らねぇが、俺はお前から離れたりしねぇよ」

「だ、だって」

「だって何だよ」

「ジャンはミカサが好きだっただろ?」

「む、昔の話だろ!訓練兵になって最初の頃じゃねーか!」

「じゃあ、エレンは?」

「有り得ねぇだろ、あんな死に急ぎ野郎眼中にねぇ」

「ええっと…ライナー?」

「そりゃお前のほうが不安だ」

「ライナーは友達だよ!」

思わずジャンの肩を掴み勢い良くそう言った。ジャンは一瞬驚いた顔をして、それから吹き出して笑った。

「知ってるよ」

「…僕は、ジャンが好きだよ」

「そうか」

「うん、大好きだ」

「…そうか」

ジャンを引き寄せ強く抱きしめながらそう繰り返す。ジャンはとても小さな声で「俺も好きだ」と呟いた。


End
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最初ヤンデレベルベルにしようかと思ったのですが初書きだし幸せな感じで行こうとこうなりました。


2014/04/04 宙

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