心配させて

「しつこい!與儀の…バカ!!」

「あ…なまえちゃん!」

喧嘩をしてしまった。なまえちゃんは呼び止めても振り向いてくれなくて、そのまま廊下を走って行った。

「珍しいね、與儀君となまえちゃんが喧嘩なんて」

「う…喰君…」

「何が理由?」

たまたま居合わせた喰君が俺に問い掛ける。「聞いてくれる?」と言うと喰君は笑顔で頷いてくれた。喰君はやっぱり優しい人だな、と感動し、お礼を言ってから俺は事の経緯を話し始める。

「なまえちゃん、明日街に買い物に行くって言うから…俺も一緒にって言ったんだけど…断られて」

「ふーん…でもそれだけで喧嘩になったわけじゃないよね?」

「うん…俺、心配で」

「心配?」

この前の休みに二人で街に出かけた時、俺が少し席を外した隙に、なまえちゃんが強引なナンパをされていた。だから一人で街に行くのが心配なんだ、と喰君に説明をする。

「それで、俺……一緒に行くって何度も…それで、しつこいって…」

「あはは、そうかもね」

「だ、だっていつもは一緒に行くって言ったらいいよって言ってくれるのに…!」

「與儀君、考えてみなよ。女の子には一人じゃないと買えない物だってあるじゃない」

「え…?」

首を傾げると喰君は笑顔で俺の耳元に小さな声で囁いた。

「下着、とか」

「なっ…!」

「ね?」

笑顔の喰君とは反対に、俺は今の一言で顔が熱くなる。

「た、確かにそうだけど…!」

「そうでしょ?」

「いやでも…!下着だってなまえちゃんに似合う物を俺が見てあげるっていうのも…」

「うん、與儀君一旦落ち着こうか」

頭冷やしてなまえちゃんに謝るといいよ、と喰君に言われ、自室に戻り反省する。ニャンペローナのノートになまえちゃんに対する想いを書いて、伝えたい事を整理しておいた。多分、これでなまえちゃんと会ったらちゃんと謝る事が出来そうだ。

「あ、なまえちゃん!」

「……べっ!」

「えぇ!?」

避けられてるのか何なのか。あれからなまえちゃんに会ってもそっぽを向かれたり、あっかんべーをされたり、そんななまえちゃんも可愛いけど、俺はちゃんと謝りたい。話したい。そうこうしている間に、気まずいまま二人で任務に行く事になった。

「あそこだよ、能力者の動きがある街」

「うん」

「じゃあ、お互い住人から情報を聞いて回ろう」

「うん」

「…あの、なまえちゃ、」

「じゃ、あたしあっち行くから」

伸ばした右手が何だか空しい。しっかりしなきゃ、と自分の頬を叩いて、任務を開始する。




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