並んで

幼馴染みの東峰旭とは小さな頃から何をするのも一緒だった。旭は体が大きいくせに小心者で、顔のわりに穏やかで優しい。いつも私の隣にいて、なまえちゃん、と名前を呼んだ。けれど、いつの間にか旭は私の前を進んでいて、なまえと呼び捨てで呼ぶようになった。私は旭の背中を追いかける。旭は、振り返らない。

「・・・」

放課後のチャイムが鳴る。がやがやと賑わいだす教室と廊下。私はボーッと窓の外を見ていた。外は薄暗く、灰色の雲が空を隠していた。天気予報は晴れのちくもり。降水確率30%。傘はもってこなかった。

「旭さん!部活!」

聞こえてきたのは毎回旭を迎えに来る背の小さい2年生。旭は「もう迎えに来なくて大丈夫だから」と言いながら彼と教室を出ていく。旭が出ていった教室のドアを振り返り、それから旭の席を見る。迎えに来たのがいつもの2年生で安心した。一昨日旭が隣のクラスの女子に告白されたと噂で聞いて、もしかしたら、と思った。いつの間に、私の知らない旭がいたんだろう。旭のことは何でも知っていて、私が旭の一番だったはずなのに。私はため息をつきながら自分の机に伏せた。しとしとと、雨音を聞きながら。

「ん・・・っ」

大きくあくびを一つ。いつの間にか眠っていたらしい。外は真っ暗だ。雨音が先程よりもつよくなっている。最悪だ、と呟いて私は教室を出た。

「・・・はぁ」

濡れて帰るしかないか、と覚悟を決めて鞄の中のジャージを着る。制服のスカートは濡れてしまうが、致し方ない。パシャ、と一本水溜まりに足を出した時、す、と頭の上に傘が差し出された。

「濡れて帰る気か?風邪引くぞ」

「・・・旭」

「一緒に帰ろう、なまえ」

「・・・」

旭が傘をさし私の横に並ぶ。部活の皆は、と聞くと先に帰った、と言った。私は歩き出せないまま、その場に立ち尽くす。旭も動こうとしない。

「旭さ、一昨日、告白されたんだって?」

「えっ」

「何で言わないの」

「だ、だって、怒ると思って」

「怒るよ!でも隠してたらもっと怒る!」

旭が大きい体を縮こまらせて、ごめん、と呟いた。私は知っている。小さな頃のように何でも言い合って隠し事をしないで、旭は私の横にいつまでもいる、なんて幻想だ。けれど、私は小さい頃のまま止まっている。

「歩いてよ」

「うん、なまえも」

「何で。旭は私の前を歩いてったじゃない」

「そうかな、並んでいたつもりだが」

「前はね」

今は私なんて、おいてけぼりだ。

「じゃあこうしよう」

旭が私の手をとる。ぎゅっと強く握って、微笑んだ。

「これなら、ずっと並んで歩いていけるな」

「・・・バカ旭」

「好きだよ、なまえ」

そう言って旭は止まったままの私を、強く繋いだ手を引っ張りながら歩き出した。


end
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初排球夢。旭さんになりました。


2014/04/30 宙

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