「うーん……迷うわ……」

 スタンダードなジャムパンも良いけど、ソーセージが挟まってるお惣菜パンも捨てがたい。しかしクリームたっぷりのエクレアもいい。うーん、迷う。
 私は今、コンビニで昼食のパンを選んでいる真っ最中だ。私は生粋のコンビニっ子でよくここに来る。それ故にコンビニのパンは全て食べ尽くしてしまった。だから選ぶのは余計に迷う。
 本当は弁当を買いたい気持ちもあるのだが、コンビニ弁当は高い。百五円のパンが3つ買える程の値段だ。だから、弁当は特別な時しか買わないと決めている。給料日とか給料日とか給料日とか。
 今は給料日前、私は金欠。これはパンを買うしかないだろう。ということで、私はパンを選んでいる。
 私の隣でパンを眺めていた男性がサッとパンを取り、レジに並んだ。スーツをスラリと着こなした、サラリーマンのようだ男性だ。
 スーツといえば、ジュテームさんはどうしているのだろうか。あの日から全く会っていない。
 謎の変態、ジュテームさんとの出会いから早数週間が経過していた。高収入でもなく、男遊びもしない私は、あの日からホストクラブ『ドラキュラ』には全く行っていない。彼は今頃どうしているのだろう。また、あの時のように女性客にドン引かれているのだろうか。ちょっと気になる。
 って、なに気になるとか言ってるのよ私。だめよ、あんな変態ナルシ男なんて。ちょっと顔が格好良いだけで、性格は難有りなんだから。目を覚ましなさい、悟りを拓きなさい私。
 頭の中からジュテームさんを振り払い、またパンと睨めっこをする。そんな私の隣に、誰かが立った気配がした。

「私なら、生クリーム&カスタードエクレアにしますね」
「ああ、それも捨てがたいですよね……って、え?」

 突然隣から聞こえた聞き覚えのある声。顔を横に向けると、そこにはニッコリ微笑んだジュテームさんが立っていた。

「こんにちは、マドモアゼル。スーツ姿もお似合いですね」
「あ、こんにちは。……じゃなくて、何でここにいるんですかジュテームさん!」
「貴女のいるところ、ジュテームはどこにでも現れますよ」

 そう言ってフフ、と笑うジュテームさん。いや、それストーカーですよね。ストーカーですよねそれ。やっぱりこの人変態だ。

「……というかジュテームさん、それは私服なんですか?」
「ええ、もちろんです。私の美貌を引き立てる良い私服でしょう?」

 美貌を引き立ててるかはともかく、ジュテームさんの服装はまるで執事のようだ。傍から見ると立派なコスプレ。けど、それがとても似合っているのだから何も言えない。
 やっぱり、ジュテームさんは格好良い。性格はアレだけど。

「マドモアゼル、どうかなさいましたか?」
「い、いえ。なんでもありません!」

 ボーっとしていた私は、ジュテームさんの声で我に返った。
 いけない、私ったら。ジュテームさんに見とれてたわ。早くパンを選ばなくちゃ。お昼休み終わっちゃう。
 私はジュテームさんを見るのを止め、目の前にあったカレーパンを手にとった。ついでに、生クリーム&カスタードエクレアも。そして、飲み物の棚から缶コーヒーも一本取り出す。しめて335円也。うむ、割安。
 一人でうむうむと頷いていると、ジュテームさんが私の顔を覗き込んできた。
 近い、近いですジュテームさん。あれ、なにこのデジャヴ。

「買うものは、それで全てですか?」
「あ、はいそうです」

 私がそう返事をすると、ジュテームさんは私が持っていたパン2つと缶コーヒーをひょいと取り上げ、レジに持っていった。

「あ、あの、ジュテームさん」
「奢りますよ、マドモアゼル。私は貴女の奴隷ですので」

 ジュテームさんは困惑する私にニッコリと笑いかけ、ポケットから財布を取り出す。
 奢ってくれるのはありがたいけど、奴隷ってなんですか。愛の奴隷、ですよね。奴隷だけだと、なんか私がそういうプレイが好きな人みたいじゃないですか。ジュテームさんだってコスプレみたいな格好してるし。違います、私は変態じゃありません。変態はジュテームさんです。私じゃないんです、気付いて店員さん。
 そんな私の訴え虚しく、店員さんは私を白い目で一瞥し、私のパンと缶コーヒーの会計をし始めた。
 嬉々として支払いをするジュテームさん、白い目で私をチラチラと盗み見る店員さん、そして落胆する私。なんだこの地獄絵図。
 会計し終わったものをジュテームさんから受け取り、重い足取りでコンビニから出る。またお会いしましょう、と言いながら微笑んだ彼を見て、やっぱりジュテームさんは色んな意味で残念なイケメンだと思った。

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