「ごめん、俺好きな人いるんだ」

 そう言って、彼は私に背を向けて歩きだした。
 これで二十四敗目。きっとこれを奇跡と言うんじゃないかしら。こんなにたくさん振られた人間は、世界中に私一人だと自負したい。
 生まれてから今まで、私は恋人というものに恵まれた事がない。一番最初に付き合った男は借金まみれで意地汚い男だった。いわゆる、だメンズというやつだ。付き合った期間は一週間。しかもそいつは夜逃げした。私の財布の中にあったお金を全部奪って。もう男とは二度と付き合わないと誓った。
 しかし、そう誓ったとしても所詮は女。辛い恋愛なんてすぐ忘れて、また人を好きになってしまう。恋をした事は数知れず、しかし全て片思い。告白に告白を重ねた結果、総合二十四敗という記録を更新してしまった。これはきっと申請したらギネス記録になるかもしれない。でも、振られた回数が世界中で最も多い女、なんていうレッテルは悲しすぎる。そう考えたら、なんだか涙がにじんできた。
 遠くなっていく彼の背中を見つめていた私は、彼とは反対方向に歩きだした。
 あばよイケメン、好きな人と幸せになれよ。もしくは彼女共々地獄に落ちろ。私を振った事を後悔するがいい。
 悲しい感情なんて一時のもの。明日になったら新しい恋をして、そしてまた人を好きになる。切り替えが早いのが私の取り柄だ。まあ、世間ではそれを学習しないとも言うが。ポジティブシンキングな私には関係無い事だ。
 私は街頭一つ無い、暗い夜道を歩いていた。いつもと違う道を通って自宅を目指している。つまり気分転換というやつだ。この辺の道はあまり通った事がないが、まあなんとかなるだろう。私はネガティブな事は考えない主義なんだ。道に迷うなんていう言葉は私の辞書にはない。道は全て繋がっている。きっと、どこか知っている道に出るはずだ。……多分。
 暫く歩いていると、向こうの方に明かりが灯っているのが見えた。あそこは何かのお店だろうか。近づいてみると、そこは古城のような造りの建物だった。壁はレンガ、扉は鉄製、ランプもアンティーク使用で重々しい雰囲気が醸し出されている。入り口の上に打ち付けられている看板には「ホストクラブ『ドラキュラ』」と書かれていた。
 ここはホストクラブなのか。私の家の近くにあるなんて全然知らなかった。それにしても、珍しい雰囲気のホストクラブだな。私が知っているホストクラブは華やかで眩しいイメージだったのに、このホストクラブは全然違う。古城のようなデザインだからだろうか。夜道にたたずむ様子は、まさにドラキュラが住んでいそうな城だ。
 私は鉄製の扉の前に立ち、扉の取っ手を掴んだ。
 今日はホストクラブでパーッと飲もう。そして、彼の事は忘れよう。明日から私は生まれ変わるのよ。新生・??として!
 私は少し気合いを入れて、ホストクラブ『ドラキュラ』の扉を開けた。これがある人との出会いのきっかけになるという事を、この時の私は知らなかった。

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