小噺
2012/06/16 02:44
ユースタス屋が帰って来た。
おかえりと言って、再び活字を追う作業に戻る。ただいまと言ったユースタス屋が、ごそごそと何かしている音を遠くに聴きながら本を読む。
暫くすると、ひたひたと足音がして背中にトスンと何かが当たった。
目線を後ろへやると赤い後頭部が見えた。耳には彼のお気に入りのヘッドフォン。
そういえば今日は彼の好きなバンドのCDの発売日、楽しみだと笑いながら話していた事を思い出す。
背中がじわりと暖かい。
ユースタス屋の体温がとても心地いい。
だが。
何故だかわからないが、とても哀しくなる。
何かを思い出しそうで。
自分は、何かを忘れている。
けれどもそれは、きっと思い出してはいけない記憶。
ユースタス屋が好きだ。
CDのケースを持つ手も、暖かくて大きな背中も、リズムに合わせて揺れる髪も、未だに使い続けてるCDプレイヤーも。大好きだ。
「好きだ」
気づかれないよう、嬉しそうな横顔にキスをした。
追記
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