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覚えておいて下さいね。
僕たちに猶予なんてものは、最初から用意されてなんかいませんでしたよ。

その言葉を聞き、何も言えずに唇を強く噛み締めるだけの私を見て、相変わらず似合わない笑みを浮かべる貴方は実に卑怯な人だと、その時思った。

貴方はお兄さんのことを大層嫌っていたけれど、私からしたら貴方もお兄さんも大して変わらないわ。なんて言ったら貴方は静かに怒るかしら。それとも珍しく声を荒らげるかしら。私は貴方と多く会話を交わした記憶があるけれど、表情の多くは見てこなかった。

花の生えない土地。
レギュラス・ブラックと刻まれた白い石を見つめる。正しくは、レギュラス・ブラックと私が刻んだものだけれども。

「私ね、大人っぽくなったねって言われるようになったの。貴方の知っている私なんてもう一ミリも残っていないのかもしれない。いい女になって、良い旦那さんと結婚して、私を置いて行ったことを絶対に後悔させてやるって何度も思った」

触れても何も言わないそれに、何かを思うわけではない。ただ、本当に変わらないままだ。「猶予なんて用意されていない」と、貴方は言ったけれど、なら私が今与えられているものを猶予と呼ばずに何と呼ぶのか。

停滞。
その二文字が頭を過ぎった。けれど、あの日から変わらないのは、止まっているのは、いつだって私だけだ。

花の生えない土地。
成長が見られない停滞だらけの土地を選んでこの場所に墓石代わりの白い石を置いたのは、貴方に対する皮肉を込めてだ。石の前に黄色い花を三本置く。花束という言うには少なすぎるけれど、貴方はきっと、久しく花の姿を見るでしょうね。

この土地に花が姿を現したのは何年ぶりだろうか。自らの力で咲くことができなくても、人の手で花を持ってくれさえすれば、土地は停滞から先に進むと言うのに。

誰もそれをしてこなかったのは、誰一人として花が咲くことを望まなかったからなのだろうか。それとも、忘れ去られてしまったからなのだろうか。

「この花、金糸梅なんだけど覚えているかな」

私がここに花を持ってきたのは、貴方への同情でも、慰めでも、感謝の気持ちでも何でもない。

「私自身のためだよ、レギュラスくん」

花言葉は、貴方が一番知っているはずだわ。そう呟きながら、一度だけ石を撫でた。



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