7

沢山の花を抱えて、彼の前に立つ。
花の生えない土地は相変わらず停滞したままだった。あの日以来、誰かがこの土地に来たという気配は感じられない。

以前置いた花は何処へ行ってしまったのだろうか。風に吹き飛ばされてしまったのだろうか。まるで、変わらずにいたいと、そう願っているかのように。この土地は停滞を望み続ける私にとてもよく似ていた。

抱えている花束を彼の目の前に置けば、この土地は停滞から先に進むのだろうか。私の行動は停滞している土地から猶予を奪ってしまうのだろうか。
私から、自分の猶予というものを。

けれど変わらなければいけなかった。随分と昔に彼が言った通り、私たちに猶予なんてものは、最初から用意されていなかったのだから。

彼の前にしゃがみ、金糸梅の花束を置く。それから小さく笑って見せた。

「私が以前此処に来た時は21歳だったから、確か18年前だったわね」

レギュラスくんが亡くなった翌年のことだよ。
呟くけれど、返事はない。

「ハリー・ポッターという少年がね、先日私のところに来たの。レギュラスくんもきっと記憶に残っていると思うけれど、ジェームズの息子よ。立派に成長して、例のあの人…いいえ、ヴォルデモートを倒してしまったの。本当に凄いわ。それで、彼から全てを教えてもらったの。レギュラスくんが亡くなった本当の理由、とか」

クリーチャーから、ハリーを伝って。
言葉を言い終え、唇を噛み締めた。まるであの日に戻った気分だ。

レギュラスくんは昔から純血や家を大切にしていたけれど、今考えれば、何よりも家族を大切にしていた。同じ血が、家族にも流れている。だから大切にせずにはいられない。

そう考える君が、血に、家に抗った私をどう思うのかだなんて、あの頃の私にはちっとも分からなかった。

「けどね、大人になった今ならレギュラスくんの言葉がよく分かる気がするの。大人って言っても、もうおばさんなんだけど…」

十八年前、私がこの土地に金糸梅を持ってきたのは、レギュラスくんのためではなく、自分のためだった。

君が居なくなってしまって、停滞を望まずにはいられなかった自分のためのもの。まるで金糸梅の花言葉に懇願するかのように、悲しみを止めてと、既に居ない君に縋り続けていた。
けれど、もう。

「いい加減、進まないとね」

今度は貴方のために、沢山の花を。そしてこの土地を停滞から先へと。

「金糸梅の花言葉は悲しみを止める」

呟きながら、花を一度だけ撫でた。
レギュラスくんのことだからきっと、余計なお世話だなんて言うかもしれないけれど、君が生きてきた人生の悲しみ全てを止めてくれるように。

最後まで立派に家族を守った君が、自分自身で後悔のない人生だったと、またいつか別の場所で出会った時、君の口からその言葉を聞けるようにと、花の数だけ祈らずにはいられなかった。



×