二章

 思いがけない登場人物の出現の仕方に嵐共々、槇までもが面食らっていたが、遠縁という店主の口からは幾分、興味深い話が飛び出した。
「あそこは元々、桜守なんかやってなかったんだ」
 客の手前控えていたのだろう、煙草をうまそうに吸いながら店主はカウンターに肘をつく。
 興味津々の体で聞く嵐と槇の脇で石本が手帳にペンを走らせていた。
「あたしの爺さんが蘇芳の当主と年の離れた遠縁でね、あたしの父親が子供の時には交流もあったそうだ」
「ちょっと待て、当主ってのは誰だ。小五郎か?」
 淀み無い口調で語り始める店主に槇が手の平を向ける。店主は首を振った。
「小五郎さんの父親さ。与四郎さんっていう。それがまた、厳格を絵に描いたような人でねえ。父親の話を聞いているだけでも、息子の小五郎さんが気の毒に思ったもんだよ」
 一息ついて煙草を吸い、煙を天井に向かって吐く。
「だから当主が亡くなってから、桜の木をあの屋敷の庭に植えたって聞いた時は、こりゃあとうとうやったなと思ってね」
「とうとう?」
 嵐が聞く。かくしゃくとした店主の話しぶりは昔を懐かしんでいるようでも、面白がっているようでもあった。
「さっき言ったように当主は本当に厳格な人だったんだ。異常なまでに潔癖症っていうのかね。庭師としての腕は一流だが、そんな性格だから、庭の風景を壊すような一本木は植えたがらなかったんだ。あんた達もその様子じゃ屋敷の庭は門から見えただろ」
「洋式でしたね」
 嵐は我が家とは違う、と心の中で付け加えた。育ち放題伸び放題の庭を預かる祖母に見せてやりたい。
「そうそう。徹底的に洋式を追求するもんだから、桜の木は合わないっていうのを死ぬまで通して。……そしたら、与四郎さんのお通夜の後に小五郎さんが桜の木を庭に入れてるじゃないか。普段はお優しい方なんだが、何か、あの時ばかりは恨みめいたものが見えてさすがに怖かったねえ」
「小五郎とも話したのか?」
「本当に小さい時にちょっとだけさ。当主と違って随分、物腰の柔らかい方だと思ったよ。それからだね、桜守の蘇芳で有名になったのは」
 急いで言い切ってから、ガスにかけていたヤカンが呼ぶのに応えて煙草を灰皿に押し潰し、慌ててカウンター内に収まる。
 ヤカンを下ろしながらも口は止まることを知らなかった。元々、話好きなのだろう。
「まあ、その有名になったっていうのも逸話があってさ。血は争えないっていうのかね。店の前の道をずっと屋敷とは反対側に行くと、大きな街道にぶつかるだろ。あそこは元々、大きな桜並木があってね、でも随分な老木でどこの庭師も匙を投げていたのさ。もう寿命だって言ってね」

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