一章

 総じて、自分は運が悪い方なのだと思う。
 「あちら側」の者を見れる力なんて欲しいとも思わないし、彼らに関わる事柄には極力触れたくない。ましてや自分から関わろうと思ったことなど一度としてない。
 なのに、と溜め息が隠せない。
 どうして彼らは自分を放っておいてくれないのだろうか。
「……もう少し嬉しそうな顔してみろよ」
「何が悲しくて槇さんに会わなきゃならんのですか。というか、何でここに」
 後ろに若い刑事を引き連れて現れた槇に、嵐は気持ちが落ち込むのを止められなかった。
 嫌そうな態度を隠そうともしない嵐に近づいて、槇は指を突きつける。
「そりゃこっちの台詞だ」
「……大方、面倒な事が出来たから俺に押し付けようって魂胆じゃないんですか」
「へえ、すごい。当たってる」
「阿呆」
 嵐の指摘に感嘆の息をもらしてぱちぱちと拍手する若い刑事を一喝し、槇は嵐に向き直った。
「まあ、そのあれだ。お前に連絡取ろうとしたのは本当だが、オレだって暇してるわけじゃないんだからな。ここに来たのは仕事だ、仕事」
 仕事、の単語を強調して言う槇の後ろで若い刑事がぼそりと呟く。
「それだって、連絡取ろうとした矢先で警部に行動読まれて、聞き込みやれって言われたんじゃないですか」
 顔を背けて呟く若い刑事の言動に今度は我慢ならなくなったのか、槇の拳が飛んだ。半ば漫才のようなやりとりをとっくり見物し、嵐は盛大な溜め息をつく。
「俺も仕事ですよ」
「ここでか?」
 槇が怪訝そうに隣へ視線を向ける。槇の言い分には自分も甚だ納得させられるが、自身のくたびれたスーツを棚に上げてそう言われるのは些か心外だった。
 頑丈なレンガの壁から天に向かって突き出す鉄柵、その壁が内に抱くのは背の高い木々と洋式の広い前庭、そして最奥に鎮座するのは城と見紛うばかりの洋館であった。
 二階建てのシンメトリー方式で建てられ、窓の数の多さから相当の広さを持つであろうことが推測出来る。レンガ製の壁とは対照的に漆喰の白色で統一された姿は荘厳で、どっしりと構えた屋敷を覆う屋根も落ち着いた風合いと時間を感じさせた。
 写真などで見るような洋館がそのまま現実世界に出てきたようで、確かに、あの荘厳さを前にラフな格好の嵐は勿論、くたびれたスーツの槇などは問題外である。唯一、しっかりとスーツを着込んだ若い刑事ならば納得行くものだが。
「……とりあえず説明しますから、場所移動しましょう」
 逃げられないと観念した嵐は肩を落とし、踵を返す。さすがに人の家の前で男三人が話していれば不審なことこの上ない。
 これには槇も賛成し、大人しく嵐の後に続いた。


 洋館は小高い丘の上に位置し、だからあの広大な敷地があるのだと合点がいく。しかし、緩やかな坂を下りる間、人家やお店、はては公園までもが全く見かけることなく、丘を下り切ってようやく喫茶店を見つけた時には、槇は心底安堵した。

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