三章

 洗ったサツマイモを濡らした新聞紙で包みながら、嵐は落ち葉を一箇所に集める明良を見た。
「宮森って家知ってるか」
「何だよ、いきなり」
 ジャージの上にはんてんを羽織る姿は、彼を崇める女性陣を幻滅させるに違いない。自称多少顔がいいとされる明良はその顔をしかめ、色素の薄い髪に秋の穏やかな陽光を反射して竹箒を動かしている。
「宮森なに?」
「真琴。母親が祥子」
「宮森祥子?」
「知ってるの」
 ああ、と言って手を止め、立てた竹箒に体重を預ける。箒の先が固い竹箒だからこそ出来る技だが、見ている側としては危なっかしい。もっとも、そうしたところで怪我するのは明良なので、自分には関係ないとばかりに嵐は耳を傾けた。
「知ってる。うちの檀家だよ。あれだろ、あの綺麗な住宅地のとこの家」
 黙って聞いていると明良は再び手を動かし始め、銀杏の木の足元に散乱する落ち葉をかき集める。
「あそこの爺さんの代からうちの檀家でさ。それに宮森祥子っつったら有名じゃんか」
「有名?」
 怪訝そうな顔つきで嵐を見てから、それまでに集めていた落ち葉の山に銀杏の落ち葉を合流させた。
「お前、回覧板ぐらい読めよ。ママさんバレーのエースで、地区対抗で優勝しただろが。知らねえの」
「知らん」
 回覧板など母親や祖母が目を通して終わるのみで、唯一関わるとすれば近所に回す時だけだった。それに興味を抱いて開いたことなどほとんどない。
 自分がそうなのだから、明良など触れてもいないと思っていたのだが。明良がその回覧板に目を通しているということの方が充分、驚愕に値する。
 そんな嵐の意図などお構いなしに、回覧板で得たのであろう宮森祥子に対する見解を勝手に述べ始めた。
「まあ、明るい人だよな。底抜けて。話好きらしいし、凄く気が強いんだってさ」
「へえ」
 気のない返事をして五個目のサツマイモを手に取る。新聞紙を濡らすために足元に鎮座するバケツの水は凍りそうなほど冷たく、手を入れただけで突き刺すような痛みが走った。わずかに顔をしかめて軽く水気を絞り、サツマイモを包んでいく。
「なんでも、他人の子供の喧嘩まで代行するらしいぜ。子供はいい迷惑だろうけど、親連中からは賛歌の嵐みたいだな」
「……お前さ」
 べらべらと聞いてもいないことまで答えていく明良に声をかける。
「それ回覧板だけの話かよ」
「まさか。井戸端会議に参加して」

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