序章

――酒だ。かぐわしい酒の香りがする。
 ただその香りだけで、人の心を酔わし、口に含めば天上の味が広がる。それは至福の瞬間であり、人生においてこの上をゆく至福はないだろうと――そう思っていた。
 しかし、いざ手にしてみた家族というものは重く、その中で育まれゆく命の尊さは酒の至福を超越した。一時は、極上なその味わいを忘れもした。
 が、手放すことは出来ず今になってあの味が恋しい。
 これは悪あがきだ。
 だが、あれをもう一度飲めるなら、その機会が与えられるなら――。
 布団の中で痩せた老人が呟く言葉は、戯言程度の印象しか与えなかった。


序章 終り

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