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01




放課後の教室、渚や名前と話している時、なまえのスマホが震えた。二人に断りを入れてブレザーのポケットから出し確認すると、学校を休んだカルマからメールが入っていた。簡素な文章で、『今日の分の授業ノートよろしく』とだけあった。使いっぱしりのような扱いなのに、彼の家へ行く口実ができたことで口元が緩む。

「メール、カルマ君?」

問いかけたのは渚だった。彼女は元の場所にスマホを収めながら、鞄を肩に引っ掛ける。

「うん、授業のノートが欲しいって。ごめん、私行くね!」

「みょうじさん、また明日」

「赤羽君によろしくね」

慌ただしく駆け出したなまえの背に向けて、渚と名前が手を振った。教室を今まさに飛び出そうとしていた彼女だけれど、最後に振り返って大きく腕ごと振り回すように返した。





なまえとカルマは一年生の時から同じクラスに所属していた。さらに最寄駅も一緒だったために、より親密になった。

最初に彼を意識し始めたのは、彼女の方だった。成績は並、人に流されがちで主体性のないなまえが頭の回転も良く堂々としているカルマに惹かれるのは必然的だったといえる。

彼女はどうにかして好かれたくて、自由奔放な彼に無理をして合わせた。彼が「遊びに行こう、今から集合!」と言えば予定を無理に調整してでも向かったし、「購買で俺のパンも買ってきてよ」と言われれば、従った。しかしその甲斐あってカルマと仲良くなることには成功し、一年の終わりごろには二人の仲は噂されるまでになった。





カルマの家にたどり着いたなまえは、緊張を抑え込むために一つ深呼吸した。インターホンを押すとしばらくの間をおいて玄関が開いた。

「あがってよ、親いないから」

訪問者の声も確認せずに、カルマが扉からひょっこり顔を出す。なまえは少しだけ気張っていた力を抜き、「おじゃまします」と呟いた。門を押して中に入り、中から鍵を閉める。二、三段あがって玄関まで行くと、カルマが戸を開ききって招き入れた。あとはもう、通いなれた彼の部屋まで通される。鞄からノートを出して机の上に置くと、彼が彼女にベッドへ座るよう促した。

「ありがとう、いい子いい子」

正面に立ったカルマが幼い子をあやすように、なまえの額にキスを落とした。嫌味っぽさは感じなかったけれど、恥ずかしくて軽く俯いた。羞恥心をごまかすように、「名前ちゃんや渚も気にしてた。学校おいでよ」と話題を逸らす。しかしカルマは上の空に、彼女の隣に腰を下ろした。

「んー、明日はいくよ。それよりさ」

肩に手が置かれるのは合図。上目に視線を寄せると、ベッドのスプリングが軋んだ。

「おでこじゃ物足りなさそうな表情したよね?」

いたずらっぽい笑いを含みながら、カルマが問いかけた。今度は唇同士が触れ合って、なまえは静かに瞼を閉じた。





初めてなまえがカルマにキスをされたのは、ちょうど二人の仲が噂され始めた頃だった。その日も彼の都合で部屋に呼び出されていたのだが、彼女はその詳細を忘れてしまった。気付いた時にはカルマの顔がすぐ近くにあって、いたずらが成功した子供のように笑っていたことだけは記憶している。瞬間的に唇へ柔らかいものが触れていて、驚きに目を閉じるのも忘れていた。

一度離れた距離が、再び二人の視線を絡ませる。突然のことに瞬きさえできずにいた彼女を見て、カルマはくすりと笑った。そして目を覆うように大きな手を乗せて、もう一度口づけた。何度も、何度も繰り返したので、彼女は行為の理由を聞くことさえできなかった。なまえがその時していたことと言えば、震える手で制服のスカートを強く握りしめていたぐらいだ。

キスが二人の関係がどう変えたのか、なまえにはさっぱり分からなかった。しかし、その日を境に、「みょうじちゃん」と呼んでいたカルマが、「なまえ」と呼び捨てるようになったことは気づいた。





「考え事?」

ほどいたなまえのネクタイをベッドの下に落としながらカルマが問いかける。気付けば考えの読み取れない彼の瞳が見下ろしていて、頬を指先が撫でる感触をくすぐったいと感じた。

「えっと……、カルマのこと」

「あは、どこで覚えたのそんな口説き文句」

堪えきれずといったように息をもらして、カルマが笑った。そんな彼をじっと見つめていると、視線に気づいて真剣な表情になった。

「なまえ」

深い響きで名前を呼ぶ。シャツを触ろうとした彼の手が喉元をかすめ、心臓の奥がきゅうと締め付けられるのを感じた。

カルマは最中はおろか、普段からなまえに対して愛を紡がない。彼女は「付き合おう」とさえ言われた記憶がなかった。

教室を出る際に見た友人たちの笑顔を思い浮かべながら、彼女は胸の奥に暗い感情が疼くのを感じた。渚と名前が自分を見送る晴れやかな表情には一点の曇りもなく、なまえが幸せであることを信じて疑っていないのが分かった。なまえ自身、自分が幸せなのか不幸せなのかさえ分からないのだから、無理もないことなのだが。

相談しようかと悩んだこともあったけれど、すぐに諦めた。名前も渚もとても純粋な、お似合いのカップルで、そんな二人に自分のことを知られたら、軽蔑される予感があったのだ。

「カルマ」

ねだるように名前を呼べば、求めることは理解してくれる。深いキスを交わしながら、彼の手が赤く塗られた爪先を撫でるのを感じ、気分が高揚した。カルマの手つきがあまりにも優しくて、なまえはこの行為が愛の末にある行為のように勘違いしそうになる。




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