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壊れないお人形




※グロいです



眩しい程のネオンに邪魔されて、都会の夜空には星ひとつ見えなかった。そんな寂しい景色を背にした西は、オモチャのような銃の先を私の額に押し付けた。

「気分はどうだよ?」

オモチャみたい、とは言ったけれど、これが普通の銃より殺傷能力があることは先ほど目の前で見せられた。得体のしれない生き物をためらいなく撃ち殺した西は、教室にいるときと違って楽しそうだった。

銃を持っていない方の手が私の肩を掴み、コンクリートに押し付けられた。夜の道路はとても冷えていて、体温が地面に奪われていくのを感じる。私の腰骨あたりに跨る西が口元をゆがめたのを見て、ああ笑っているんだと少し時間を置いてから気付いた。なにしろ私はこいつが笑うところを初めて見たのだ。

「いつも苛めてるクラスメイトに銃を突きつけられて、悔しい?悲しい?怖い?……なぁ、どんな気分か言ってみろよ」

クツクツと喉を鳴らした西がますます銃を押し付けた。痛みに顔をゆがめると、恍惚とした表情を浮かべる。お腹に熱くて固い何かが当たっているのに気付いて吐き気がした。西が、勃起している。

「まさかお前が“こっち”に来るとは思わなかッたよ。哀れな愚民だな、何が原因で死んだわけ?まぁ、興味ないから説明しなくていーけど。どうでもいいんだ、理由なんて。俺はただお前で鬱憤を晴らせるのがどうしようもなく嬉しい」

目の前のクラスメイトは、最早私の知るクラスメイトではなかった。猫を殺して楽しんでいるという噂を耳にしたことはあったけれど、実際に目にしたことがないので彼に対するイメージは「捻くれた根暗」だった。それぐらい私は西を知らなかったし、逆に西も私を知らなかったといえる。同じクラスにいたのに全くの他人のような存在だった。

かといって、私には彼を苛めた記憶もなかった。確かにクラスメイトが彼を苛めるのを止めもしなかったけれど、率先して嫌がらせを行ったことは一度もない。そんなことは苛められている彼にしたら大差ないのかもしれないけれど、こんな理不尽な仕打ちに合う理由としては足りないと思った。

手加減なしに押し付けられる銃が、彼の憎悪の深さを物語っている。

「……なんだよそのすっ呆けた顔。おい、見ただろ?さっき、この銃で星人撃ち殺したところ。本物だぜ。スーツ着てねーだろ、お前。一発で粉々になるぞ」

スーツとは、彼の首元にのぞく黒い衣服のことだろう。西が私のスーツの着用を確認しようとブラウスを引っ張ったせいで、首元のボタンが一、二個はじけ飛んだ。しかし予想通りスーツを来ていない私を確認して、彼が少しだけ残念そうな顔をした気がした。「スーツ着てればもっといたぶれたのに」なんて物騒な言葉が落ちてくる。

「さッきからその無表情、なんなんだよ?……俺はさァ、お前みたいなのが一番腹立つんだよ。我関せずな態度で被害者側にも加害者側にもつきませんよッて奴。ただ無関心決め込んで第三者演じてるだけじゃねーか。お前が一番ウゼェ。ウゼェんだよ。ずっとずっと殺してやりたいって思ってた」

彼が銃口を私の右足に向けた。光が集まって小さな機械音がしたかと思うと、その数秒後、経験したこともないような衝撃が私を襲う。熱い、という意識だけが右足にあった。視線をそちらに向けると、先ほどまで私の右足があったところには血の海があった。いつの間にか立ち上がっていた西が、今度は声を上げて笑っていた。携帯電話を取り出したかと思うと私を撮りはじめる。

「やッと泣いたな。痛い?だよなァ。……でもトドメは刺さないから安心しろよ」

今度は反対の脚が光った。押し寄せた吐き気に抗うこともできず、私は仰向けのまま吐いた。顔面に自分の吐しゃ物がかかる。左足にも衝撃が訪れる。自分が泣いているのかさえも分からない。

「ここにいる間ガンツの参加者は、死にさえしなけりゃ怪我が治り続ける。お前は何度も、何度も苦しんで、再生しろ。殺してはやらねーからな。何度も四肢をもいで腸を引きずり出してやッけど、絶ッ対に殺してやらねーんだ」

西がまた携帯を構える。両足のない私の写真を撮る。フラッシュがまぶしいと思ったら、今度は右腕が吹っ飛んだ。西はゲラゲラ笑いながら、自分の熱くなった分身を弄んでいた。ストレートに狂った奴だと思いながら、今度は胃液を吐いて出した。




End

120515