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告白あそび




『なまえ、可愛い』

「そ、そんなことないよ」

『いや、なまえが世界で一番だ』

「スイッチってば、そんなに褒めたって、何にもでないよ?」

『別に見返りを求めているわけじゃない。単純に、そう思ったから口にしたまでのことだ。――いや、下心ならあるか。俺はなまえのことが好きだからな』

「え!?す、スイッチ……!?」

『ふっ、……なまえ、顔が真っ赤だぞ。どうやら返事は期待していいようだな?』

「わ、わたし……」

部室から聞こえる甘いやり取りに、ボッスンとヒメコは足を止めた。今まさに室内へ入ろうと取っ手に伸ばしていた手を固め、互いに顔を見合わせる。

(なぁボッスン聞いた!?今の、スイッチとなまえの声やんな!?)

(ど、どー考えてもそうだろっ。つーか、なんで声ひそめんだよっ)

(だって何かマズい感じやん!ボッスンこそ!)

(あいつら、いつの間にこういう関係になってたんだよ?)

ボッスンの言葉にヒメコが唾を飲み込む。静かな廊下に、なまえとスイッチの声はよく響いてきた。相変わらず甘い空気を醸し出す二人に、ボッスンは苛立ちを覚えた。同じ部のメンバーなのに、そんな話を聞いたことは一度もない。

「水くせーじゃないか……」

「え?ボッスン何て?」

「スイッチィィィ!お前、俺に相談しないで誰に相談するってんだよォォォ!」

混乱や驚き、羞恥や羨望、様々な感情が爆発したボッスンが、思い切り扉に手をかける。勢いよく室内へと踏み込もうとするのを、ヒメコが止めようと手を伸ばした時だった。

扉が半分ほど開いた所でボッスンの肩に乗せられた手。突然のことに、ボッスンもヒメコも驚き固まった。振り返り、その人物の姿を確認してからは、なおさらだった。驚愕を隠すことも出来ず、ただ室内と背後の人物とを交互に見比べるしかできない。

「え、スイッチ……え!?お前、なんで……今、部室内に……」

ボッスンの背後に立ったのは、紛れもないスイッチであった。しかし彼はパソコンを持っていなかったので、返事をせずに室内へと踏み込む。部室にいたのはなまえだけであった。現れた三人に驚いたのか、目を丸くして立ちすくんでいる。

「ぼ、ボッスン、ヒメちゃん、スイッチ君、みんな、いつから」

狼狽する彼女はデスクの手前に立ち、背後を隠そうとしていた。しかし、その後ろにあるのがスイッチのパソコンであることは瞭然であった。

事情を知らないスイッチだけが、ピンと背筋を張って彼女の元へと歩んでいく。デスクの上のパソコンをいつものように抱えると、ボッスンとヒメコを振り返った。

『俺はたった今部室に戻ってきたところだが、どうかしたか?』

ボッスンとヒメコは互いに顔を見合わせる。スイッチの背後では、全て聞かれていたことを理解したなまえが悶絶していた。スイッチはそんな彼女に訝しげな視線を送るが、それに気づく余裕も無いようだった。

「い、いやぁ〜別に、なんでもねーけど……。スイッチがパソコン置いていくなんて珍しいなって思っただけだよ」

『あぁ。本当に少しだけ離席するつもりだったから、置いていったんだ。体育の授業等では手放しているし、珍しい話でもないだろう』

「ん、あぁ〜そうだな……」

はっきりしないボッスンの物言いに、スイッチが眉を寄せる。ヒメコは居心地悪そうに視線を泳がせるばかりであった。ようやく現状に違和を感じたスイッチが振り返る。頭を抱えて唸り声を漏らしていたなまえと目があった。

『なまえ』

「ひっ」

『失礼だな。……ところで、君は俺がいない間、このパソコンに何かしたのか?』

「し、してないよ!」

全力で首を横に振ったなまえ。しかしその顔は赤く、汗も滲んでいて、不審なことこの上なかった。スイッチは無言のまま身を屈め、なまえの顔を覗き込む。それは彼女の嘘を見抜こうとするための行動だったのだが、急に縮んだ距離になまえの脳はオーバーヒートしてしまった。

「ススススウウスウスウスイッチ君、ちかい!」

『む?なんだ』

「怖い!近い!」

必死に距離を開けようと、なまえがスイッチの胸板を押す。仕方なくそれに従い半歩だけ退いた彼は、顎に手を置き考え込むようなそぶりを見せた。

『……仕方ない。ログを見るか』

「ログ?」

黙って成り行きを見ていたボッスンとヒメコの声が重なった。スイッチはそちらを振り向くと、黒縁の眼鏡を押し上げて得意げに言う。

『あぁ。実はこの音声合成ソフト、ある一定のデータ量なら辿れるようになっている。つまり、直前の発言を再度聞けると言う訳だ』

スイッチの言葉が終わるや否や、なまえが悲鳴をあげた。それを聞いた途端、スイッチが眼鏡を光らせて彼女を横目に見やる。

『ほう……やはり音声合成ソフトで遊んでいたのだな』

「……あっ!」

『人の声帯を弄ぶとは不埒な奴だ。今すぐ調べてやる』

「やめてー!スイッチ君!ごめんなさい!」

顔面蒼白になったなまえがスイッチにすがりつく。パソコンを操作し、ログをたどろうとする彼の手を掴んで必死に奮闘しはじめた。

そんな二人を見つめるボッスンとヒメコは、再び顔を突き合わせ、潜めた声で囁きあう。

「……なぁ、なんだかスイッチ楽しんでねーか?」

「ボッスンもそう思う?アタシも思っててん」

互いに一つの仮定が脳裏を過るが、まだ断定には早いという考えに至り、口を噤む。最後に一度目配せしてから視線を動かした先には、涙目になりながらもスイッチに纏わりつくなまえと、それをさも楽しそうにいなすスイッチの姿があった。




End

110609