小説 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

超能力者の憂鬱




僕の名前は斉木楠雄。超能力者だ。読者のみなさんは超能力に対してどんなイメージを持っているだろうか?便利?万能?人生ベリーイージー?もしそうなら今すぐその偏見をかなぐり捨てて欲しい。超能力なんて、全くいいことがない。周囲の人間の心の声が嫌でも聞こえてきて常にうるさいし、その内容は耳をふさぎたくなるほどうんざりするようなものだ。例えば人気者の熱血教師が(生徒うぜぇ〜早く帰りて〜帰ってポテチ食いながら、教師が生徒を惨殺してく映画見てぇ〜生徒うぜぇ〜)とか考えているのも丸聞こえなのだ。何も信じられなくなる。それから透視能力。思春期の男子が最もうらやましがる超能力だが、これも現実はそう甘くない。僕の透視能力は対象をずっと見ていることで、際限なく透かしていってしまう。つまり、君たちが期待しているような裸体は一瞬で、あっという間に骨になる。まあ、僕は女性の裸なんて子供の時点で見飽きているので、どうでもいいのだが……。

お分かり頂けたと思うが、超能力なんてちっともいいものじゃない。人間の愚かさには辟易するし、努力して物事を達成する喜びも経験できない。おっと。

「斉木くーん!」

手を振りながら僕を追いかける彼女は、同級生のみょうじなまえだ。通学鞄を振り回しながら必死で走っているが、そのスピードはかなり遅い。仕方なく僕は足を止めて待ってやる。ようやくたどり着いた彼女は息を切らせて僕に微笑んだ。

「通学路おなじだったんだね。知らなかったよ〜。よかったら一緒に学校行こうか?」

可愛らしく小首をかしげて彼女が笑う。みょうじさんは朗らかな性格の、クラスでそこそこ人気がある女子だ。読者の皆さんは散々僕が前振りしたこともあって、今頃こいつはどれだけ性格ブスなのだろうと期待していることだろう。しかし残念ながら彼女は僕の知る限り悪い人ではない。というか、あまり物事を考えていない。いつもぼんやりとしていて、今だってお弁当に入れてもらったハンバーグのことを気にしている始末だ。さらに言えば先ほどのセリフも月に二、三回いわれている。

話は変わるが、人は何故、努力できるのか君たちは分かるだろうか。僕は、それなりの応酬があるからだと思っている。学生が勉強するのは成績が上がるからだし、運動部がランニングをするのは体力がついて部活動に良い影響を与えるからだ。人は結果を想像して期待することで頑張れる。これは恋愛にも言えることだろう。望みがどんなに薄くても、もしかしたら相手が振り向いてくれるかもしれない、そんな期待がどこかにあれば人は恋を楽しめる。

だから僕は、まるで恋を楽しいと思えない。筒抜けの彼女の思想がそれを語っている。僕は彼女が好きだが、彼女は僕に全く興味がない。鞄の中にあるお弁当のハンバーグや、さっき朝食に食べてきたフレンチトースト。夕飯に母親が作ると約束した天ぷらの方が、彼女にとっての優先順位は高い。彼女が口にせずともはっきりと聞こえてしまうこの声は、耳をふさいだって僕の鼓膜を震わす。こんなにむなしいことがあるだろうか?

「斉木くんはさ、今日のお昼なにたべるの?」

無邪気に質問してくれるのも、いわゆる社交辞令だ。もしもフォアグラだと答えれば一瞬ぐらい気をひけるかもしれないが、それも続かないだろう。なんとなくむしゃくしゃして返事をしないでいると、彼女が少しだけ不思議に思ったらしく、こちらを向いた。

「ん?どうした?お腹減った?」

大丈夫だ。そう答えたら、良かったと言われた。無視されたことに腹も立てない。彼女は本当に純粋な存在だった。……あ。

しかしさすがに不審に思ったらしく、彼女はもしかしたら僕が不機嫌なのかもしれないと考え出した。こんなのは考えを読まなくても分かることだ。僕の方をさっきからちらちらと横目に見ている。

少しの沈黙が流れた後、みょうじさんは覚悟を決めて僕の名を呼んだ。「斉木くん、もしかして私のこと嫌い?」ずいぶんとストレートだな。「嫌いじゃないの?でも、一度も私のこと見てくれないじゃない?」いくら天然でも気付いたか。「私、図々しかったかな?よく空気よめないって言われるんだよね。ごめんね。あ、忘れ物しちゃったから、取りに帰ろうかな」……違う。

困り果てた彼女が逃げ出そうとするので、腕を掴んで引き留めた。ぎょっとしたように振り返る。しかし僕が俯いたままなのを見て、(やっぱり嫌われているのかな)とみょうじさんは心中で涙ぐんだ。

――僕はさっき、女性の裸は見慣れていると言った。けれど、やはり思春期の男なのだ。好きな人の裸を見るのには罪悪感がわいた。それに、見つめ続けていると彼女は骨になってしまう。死を彷彿とさせるその姿は、あまり見ていたいものじゃなかった。

「斉木くん?」

どうやって言い訳をしたら彼女を納得させることができるだろうかと、必死で考える僕は気づくことができなかった。いつも食べ物のことばかり考えている彼女の脳内が、奇跡的に僕のことだけで埋め尽くされていることに。




End

130511