三大ストーカー | ナノ
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俺は告白された。

……と言うと、モテねェ男が生まれて初めて告白されたみたいだから止めておこう。

言っておくが俺は別にモテないわけじゃない。むしろ、何もしなくても女が腐るほど寄ってくるタイプだ。告白なんざ飽きるほどされてきた。

ただ冒頭であえて述べたのは、あまりにもその告白が特殊で、異様だったからだ。





放課後の教室で沖田や土方とくだらないやりとりを楽しんでいた。そんな時、一人の女が教室へと飛び込んできた。

女は俺の名前を呼んだ。反射的にそちらを見たが、名前も知らない女だった。確かクラスメイトだったとは思うけれど話したこともない。

そんな女が唐突に声を張り上げ言ったのは、想像もしなかった言葉。

「けっ、結婚して下さい!」

一瞬、時が止まったかのように思われた。

状況を把握できずに立ち尽くす俺。周囲で成り行きを見ていたクラスメイト達も、呆然と女を見つめていた。

「ず、ずっと好きです!今も!これからも!」

顔を真っ赤に染め上げると女は軽やかに身を翻した。止める間もなく再び廊下へと消えていく。

本当に、あっという間の出来事だった。まるで、嵐みたいな。

「……なんでィ、今の」

漸く沖田が口を開いた。それを合図に周囲がざわめき出す。俺はそこでやっと今自分の身に起きたことを理解した。名前もしらねェ奴に告白されたのだ。

「ありゃあ確か、同じクラスの……」

土方が自信なさげに呟いた名前は、馴染みのないものだった。

「高杉、あんた話したことあんのかィ」

沖田が厭な笑みを浮かべて椅子に深く座りなおす。俺は視線を逸らして「ねェよ」とだけ呟いた。だいたい顔だって、見覚えのある程度だ。

突然の出来事に未だ混乱しつつも、俺は気持ちの悪さを感じていた。名前も知らない奴に告白されるのは慣れっこだが、こんなに大勢の前で言われたのは初めてだった。胸糞わりぃ。

「なんか萎えたわ。帰るぞ」

薄っぺらい鞄を手にとって、俺は立ち上がる。相変わらずにやにや笑うのを止めない沖田と、様子を窺うようにじっと見つめてくる土方を無視して歩き出せば、クラスの奴らがちらちらと視線を送ってきやがった。

「たく、見てんじゃねーよ……」

吐き出すように呟いて扉を思いきり蹴飛ばした。途端に視線を外す奴らに心底腹が立つ。それからあの女も。わけ分からねェ。結婚?なめてんのか。

「それにしても珍しいタイプでさァ」

いつの間にか並んで歩いていた沖田が笑いながら呟いた。俺はそれに答えずに黙々と廊下を進む。珍しいタイプっつーか珍種だろ。顔もたいして良くねェくせに、身の程を知れ。

「だって高杉、あんたに告る女って2パターンだろィ」

「……あ?」

沖田を睨みつけてやるが、こいつの笑みは消えない。相変わらず食えねェやろうだ。

「高杉見てェにチャラついた女、それと――」

「やけに内気な女」

土方が沖田の言葉を引き継いだ。途端に不満げになった沖田を視界から外して俺は土方に問いかける。

「何が言いてェ」

「あの女、どっちだろうな」

何故か薄く笑った土方に苛立つ。人事だと思ってこいつら。土方は知らねェが、沖田は暇つぶしが見つかったとでも思っているに違いねェ。

「……どうでもいい」

顔を真っ赤に染め上げて声を張り上げた女の顔が脳裏をよぎった。確かに、今までにないタイプだとは思った。

チャラついた女はあんな正面切って告白なんざしねェ。付き合う付き合わないの前に、まず性欲だ。体だけ重ねてれば満足し、彼女面し始める。

こいつらの言ってる事はなんだかんだで的を射ている。実際、たまに内気な女に呼び出されたことがあった。重てーし、大抵が地味なやつだったからふったけど。

何の気なしに視線を上げると、廊下の窓は朱色に染まっていた。

その時俺はどういうわけか、あの女の真っ赤な顔を思い出していた。

この上なくメンドくせェ。俺はああいうくだらないことを言う女が一番嫌いなんだよ。










「たっ、高杉君おはよう!」

「……」

翌日、廊下を歩いていた俺に、やけに明るい声がかけられた。振り向けばあの女が笑顔で立っていた。

「なんだ」

苛立ちをぶつけるように強く睨みつける。微かに肩を揺らしたのがわかった。

それすら俺はむかついた。ビビってんなら声掛けてんじゃねェよ。大人しく隅っこで憧れてろ。しゃしゃってんじゃねェ。

「あの、昨日は逃げちゃってごめんなさい」

「……は?」

突然勢いよく女が頭を下げた。休み時間の廊下は沢山の生徒がいるせいで、多くの視線が刺さるのを感じた。

「あれ?あの……覚えてる?」

「あァ?」

「私が、高杉君のことすす、すす、好きっていうの」

「……」

不安げに俺を見上げた女。答えようもなく俺は黙ってそいつから視線を外す。それは静かな拒絶でもあった。

思惑通りに女は黙り込んだ。ここまでされて気付かないわけがねェ。俺はそのまま背を向けると女と反対側へと歩き出す。これで終わりだ。もう二度と俺に話しかけんな。

「――私絶対にあきらめない」

背後で聞こえた声は、先ほどまでとは打って変わり、凛としていた。

思わず振り返り、女の姿を確認する。変わらず笑顔のそいつが俺を見つめていた。先ほどまでとは違い、何か決意を思わせる表情だった。

「高杉君、よろしく」

「……」

俺は何も言えずに立ち尽くす。女は俺の横をすり抜けて走って行った。香った石鹸の香りは別に不快じゃなかったと思う。