三大ストーカー | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
1




高杉君がそろばん塾に通っているという情報を私が得て以来、高杉君は学校に来なくなった。そんなに嫌だったのかな、私に知られるの。

「自意識過剰も程々に死なせェ」

「沖田君……。字が間違ってるよ」

「当たってらァ。死ね」

沖田君はバレンタインデー以来、今まで以上に冷たくなりました。彼の話によると、私のチョコレートが糞まずかったそうです。

「そんなに気になるなら塾に行ってみたらどうでィ」

「えっ」

「あいつ塾だけは休んだこと無いらしいんでィ。もしかしたら今も……」

突拍子もない彼のアイディアに言葉を失う。けれど沖田君はそんなことに気づきもしないようで、「そうだ、それがいい」と無理やり話をまとめようとしている。

「でも、そろばん塾がどこにあるかなんて知らないよ」

「俺が教えてやらァ」

沖田君は言うや否やノートの切れ端にさらさらと図を書いてゆく。だからなんでそんなに高杉君のこと知ってるの。やっぱりライバルなのかなー……。

「ほら、行けよ」

「命令形?ていうか午後の授業が……」

「腹痛で死んだことにすればいいだろィ」

「死っ!?」

「さっさと行くかここで死ぬか。二択でさァ」

私は教室を逃げるように飛び出た。だって沖田君の目が本気だった。あれはよく土方くんに向けられているはずの目。どんだけ私のチョコレートはまずかったんだろう。

高杉君も美味しくなかったのかな。

ふと思い出したのは、私のチョコをだるそうに受け取る横顔だった。それだけで胸が締め付けられるように痛くなる自分が情けない。

「学校に来てくれなきゃ、感想すら聞けないじゃん……」

私の呟きは人の少ない廊下に溶けて消えた。










「吉田塾……」

塾と言うから大きな建物を想像していたのだけれど、沖田君の描いた地図の場所には小さな家が一軒建っているだけだった。和式の家というのだろうか。塀によじ登って中をのぞけば広い庭に開け放たれた縁側。寒くないのだろうか。換気は良さそうだけど。

こんなにオープンじゃあ泥棒が沢山入って来るのではないだろうか。否、だからこそ譲り合いの精神で入らないとか?裏の裏をかいてるのかな。うーん。深い。

私は塀にしがみついたまま周囲を見渡す。人の気配がない。高杉君はそろばん塾も休んでいるのだろうか。もし私のチョコレートのせいで指先が壊死して、二度とそろばんが使えない体になっていたらどうしよう……。彼の生きる希望を奪ってしまったんだとしたら謝らなくちゃいけない。否、謝っても許してもらえないだろう。一体どうすれば……。

そこまで考えた時だった。不意に背後で砂利を踏みしめる音。ハッと我にかえって首だけ後ろへ向けると、髪の長い和服姿の男性が立っていた。

「これはこれは。ずいぶんと可愛らしいお客様がいらっしゃいましたね」

「ひぎゃ……!」

やばい。見られちゃった。逃げようと足を下ろすが慌てたために滑ってしまった。思い切り背中から落ちた私は痛みに顔を歪める。やばい、泣きそう。このまま泥棒として刑務所に入れられちゃうのかな。譲り合いの精神すら持っていない奴だと後ろ指さされて一人死んでいくのかな……。

「大丈夫ですか?」

けれど男の人は私のことを心配そうにのぞきこんでいただけだった。青空を背景にしたために綺麗な髪の毛がきらきら輝いている。しばらく目を奪われていると、男の人は優しい笑顔のまま私に手を差し伸べてくれた。

「どうぞ、お茶くらいなら出しますよ」

「え……」

通報しないんですか?