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この学校には、三大ストーカーというものが存在する。
近藤君と、さっちゃんと
「高杉くーん!」
私。
不機嫌そうに私を睨んだ隻眼の彼が、被害者その三である高杉晋助君です。
「今日もかっこいいね!」
「……」
毎日変わらない挨拶にうんざりしているようですが、かっこいい高杉君が悪いのです。
「かわいー、寝ぐせついてる」
「さわんなっ」
頭を軽く撫でれば、顔を真っ赤にして手を払う高杉君。まじ萌え。犯罪級にかわいいんですけど。
「照れないで、高杉君」
「てめ、まじ犯すぞ」
「いつもそう言うのに犯したことない高杉君が好き」
「……はぁ」
ため息をつく高杉君は色っぽい。
いつものように昼休み、屋上で一人寝転がる彼の隣に座った。彼は目を開けないけど、起きていることぐらいお見通し。
「ねえねえ、結婚したら高杉君って呼べないから、今から晋助って呼ぶ練習していい?」
「死ねよ」
ほらね。目を閉じたまま言った彼は、ごろりと寝返りをうって私に背を向けた。
「死んだらずっと一緒だね、高杉君に憑くから」
「既に憑いてんだろ」
「ひっどい!彼女に向って何て言い草!?」
「いつ彼女になったんだ」
高杉君は私との会話に疲れたのか、盛大な溜息をつく。
会話が途切れて、吹き抜ける風の音だけが耳に響く。
この居心地のいい瞬間を、噛みしめるように私は目を閉じる。
「……高杉君は、優しいよね」
「あァ?」
沈黙が訪れそうになったので私が呟くと、この上なく不機嫌そうに返された。
「だって、三大ストーカーの中で一番まともな扱い受けてるの私じゃない?」
訝しげな表情をこちらに向けていた彼を見て笑って見せれば、少しだけ不満げに眉を寄せる高杉君。しかし暫く考える様に宙を見つめていたかと思うと、「そうだな」と頷いた。
「近藤君も、さっちゃんも、高杉君を好きになればよかったのにね」
「……やめろ、お前で手いっぱいだ」
想像したのか若干青ざめた高杉君が可愛くて、思わず笑みがこぼれた。
ほら、こうやってくだらないことに真剣に返してくれる所とか。高杉君ぐらいだと思う。
「そうだね、ライバルが増えない方がいい」
「馬鹿だろ。ライバルも何も、お前なんか相手にしてねーよ」
苛立ちを隠そうともせず寝返りをうった高杉君。彼の背中は広くてたくましい。
優しく突き放す、高杉君が好き。
「ねー、高杉君」
「……今度は何だ」
「もしも、近藤君とさっちゃんと、私に告白されたら誰を選ぶ?」
冗談で言った。どうせ答えなんてかえってこないと思って。この馬鹿らしいやり取りが好きだから。
「…………お前」
相当悩んだ末の応えだったようだ。間違いなく消去法なのだけど、それでも答えが返ってきたことが嬉しくて、自分が残されたことが嘘みたいで。
「……たっ、高杉く……!」
「冗談だ、馬鹿」
「大好きィィィィ!」
「って聞いてんのかコラ!」
これだから止められないのに。
高杉君は、気付いてる?
End
色恋沙汰
080915
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