一撃男 | ナノ


▼ ちぐはぐした未来予想図

戻ってきたジェノスくんはすっかり元通りとはいかず

レベルアップしたらしく、私にはそれがわからないけれども


おもいきって逆ギレをして八つ当たりをすることにしました


「きたか…、あージェノス」

「はい、何でしょうか先生」

「とりあえず、こいつの気が済むまで正座してやれ」



サイタマさんからジェノスくんが戻ってきたと教えてもらい

こうして私はサイタマさんの家にお邪魔しているのですが


「サイタマさん、最新刊お借りしますね」

「おー」

「ジェノスくんは動かないで下さい」


その最新刊を正座しているジェノスくんの頭上に上手く置き

私も向かいで正座を座った



ジェノスくんの表情が困惑気味になりつつ

サイタマさんは、我関与せずという態度を貫き通そうとしてます


「あの、七面鳥の蒸し焼き娘さん…これにはどんな意味が」

「正座だけなんて、ジェノスくんにはあまいと思ったんです」

「なるほど、わかりました」


私は怒っていますと伝えたところで

ジェノスくんは、きっと素直に謝ってくれて

私は、必ずそれを許してしまう


年下のジェノスくんに八つ当たりするのは

迷いもしたけれど、もうすぐ成人男性にも成り

社会で働きにはすでに出ているので

年齢で判断するのではなく、ジェノスくんを



社会で生きていくひとりの人間として



どうして、私が怒ってお説教紛いをしてるのかということ

を伝えることに決めました



ジェノスくんは、あまりにも自分に無関心過ぎる



強くなろうとして自分の命さえも深く考えずに切り捨てるほど

ヒーローとしてのやりがいを見出しているのかもしれない



けれどそれが、仕事に対する誇りなら変えてやるなんて思えなく

自分じゃない誰かから強制的に変えさせるものでもないと思いますが



せめて私の気持ちも知っておいて欲しいと思いました



「隕石落下の日に、心配してくれて嬉しかったです」

「はい」

「でも、それと同じくらい悲しかったです」

「…」

「『幸せになってください』」

「…」

「ジェノスくんの覚悟は痛いほど伝わってきました」



守りたいと思える場所が、またジェノスくんにもできたこと

私は、そこに自分も出入りできることが嬉しかったんです



でも、その言葉を発したあの時の電話越しのジェノスくん




その未来図に


ジェノスくんはいましたか


私にはジェノスくんが見えませんでした



「そんなジェノスくんはひどいです」

「ひどい、ですか」

「仕事熱心なのはいいことだと思います」

「はい」

「けれど、仕事だけに身を捧げるのは止めて頂きたいです」

「…」

「ジェノスくんのいつもをないがしろにしないでください」



ヒーローとして活躍して生きていく彼らには


ヒーローショーが始まるまでの日常も

ヒーローショーが終わり、そこにある普段も



もっと大切にしていて欲しいです




隕石落下というニュースを電話で受け取った後に見ました

そこに真正面から突き進んでいくヒーローとしてのジェノスくん



勇気があり、正義感もあって、とてもかっこいいヒーローでした



同時に、行かないでくださいと叫びたくもなりました



「ジェノスくんが見えてた未来はどんな未来ですか」

「それは、先生と七面鳥の蒸し焼き娘さんがいつもど」

「私とサイタマさんのいつも通りは書き換えられました」



理解がしきれてないという顔をするジェノスくんにこれ以上言うことに

躊躇もしたけれど、私はヒーローじゃないから身勝手にも



もう二度とこんな思いをさせて欲しくないから


たとえわかってもらえなくとも言うことにしました



「とっくに変わりました、私たちのいつもにジェノスくんがいます」

「俺が、ですか」

「私が見たい未来図には、サイタマさんとジェノスくんもいるんです」



見たくて望んだ未来予想図に自分を入れ忘れないでください



それだけを伝えたくて下手ながらも言葉に紡いでいく、

サイタマさんの近所に住んでる女というポジション

それがこんなに語るのは気も引くかもしれないと思う



でも、もし言わなければ


私が悔やんで泣き寝入りしてしまう気がしました



「帰ってきてもらいたい場所があるのに」

「…」

「ジェノスくんが帰ってきてくれなければ完成しないんです」


完成した未来図に、幸せじゃない未来図なんてない

でも、幸せを構成する欠片ひとつ足りなくなる


それだけで幸せは色褪せて、握りしめた未来図も色褪せていく


「守るためのヒーロー活動はしないでください」

「七面鳥の蒸し焼き娘さん…」

「帰ってくるためにヒーロー活動してください」

「それは」

「ジェノスくんにも譲れない何かがあるのはわかってるつもりです」

「…」

「いつか守りたい何かを見失ったら思い出して盲信して下さい」


それだけをお願いしたいんです、と彼の目をまっすぐ見つめて

支離滅裂かもしれないけど、自分の気持ちを精一杯伝えてみた




頭の上にあった最新刊は、もう落ちていて




代わりに、サイタマさんが「そうだ、次に鍋やる日取り決めようぜ」と

いつもと同じトーンと笑顔で言ってきてくれました



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