一撃男 | ナノ


▼ 気持ちの持ちようで色は変わり変わる

今日はサイタマさんとジェノスくんの試験日です

二人の事は気になりますが、しっかり働くなくては

二人とちがって、私は流行に乗り切れてない大人だからね

でも、協会の試験に受かるとバッチみたいなのがもらえるのだろうか


「七面鳥の蒸し焼き娘ちゃん、お水のお代わりを貰えるかしら」

「はい、ただいまお持ちいたしますね」


お店は平穏だ、今日は早めに上がれるだろうし

二人が受かったら、なんかお祝いしようかな


考えながら、レジ前に立っているとお客様が入ってきた


「いらっしゃいませーおひとりさまですか?」

「ああ」

「では、こちらの席へご案内しますね」


ちょうど人気の窓側が空いていたので案内したら声をかけられた


「ねぇ、君はわざとなのかな」

「え」

「この僕を窓側に?店の宣伝としか思えないよ、事務所を通してもらえるかな」


何の話だろう、あ…ようやくすると、窓側がきらいってことかな


「申し訳ありません、それでは奥の席へご案内しますね」

「…そう」


そんなに窓側嫌いなのか、そういえば肌白いから焼けるのが嫌だったのかもしれません

もっとしっかりお客様を見なくてはいけませんね


「本日のおすすめは、こちらの季節限定ケーキセットになります」

「じゃ、それにするよ」

「はい、ご注文ありがとうございます。ただいまお冷をお持ちいたします」

「…………」


それからは特に問題なく、いつも通りの昼下がりが過ぎていく

と思っていたら、さっきの窓側を嫌がったお客様に声をかけられた


「少し話さないかい」

「いえ、お仕事中ですのすみません」

「…僕に見覚えはないのかな」

「ありません」


全くない、なんなんだろうこの人

水色の髪してる時点で、外人さんだと判断するべきなのかと迷ってた


「なら、さっきのはわざとじゃないんだな」

「あの、先ほどの件なら」

「僕はイケメンヒーローをやっていてね」


あ、あかんタイプやとつい関西弁で思ってしまった

かける言葉も見つかぬまま突っ立っていたら彼は喋りまくってた


ひとりで


そろそろ、紅茶がなくなってきてる

あとでお湯を足そうかな


「僕はA級ヒーローをしているんだ」

「そうですか」

「だが、俳優やアーティストもやっていてね」

「そうですか」

「よくメディアにも顔を出すんだ」

「そうですか」

「今日も、撮影で近くに来ていてね」

「そうですか」

「台詞も角度も演技も全て完璧、NGなんて出さないさ」


この人、サイタマさん以上にいた…ちがう、中二病なんですね

かなりの重症だと見受けられる


「イケメン仮面アマイマスク」

「そうですか………え」

「僕のヒーローネームさ」

「…ピッタリなヒーローネームですね」


お世辞にもこう言わないといけないのだが、すごい名前を自分でつけましたね

どうやらご自分のお顔に絶対的ご自信があるようで

よくよく見れば顔は整ってる方なので

ヒーロー設定の上にさらに自分に酔ってしまわれた系男子ですか



正直あまりかかわりたくありません



「お仕事両立大変でしょうが、頑張ってください」



それだけ言って、私はそそさく奥の方へと帰っていった

まだ、趣味でヒーローやってますっていうサイタマさんが常人に見えた


お店の奥に行くと、店長がケーキをちょうど作り終えたのか

ひと休みをしなががらオーブンを見ていた


「店長、ヒーロー…やっぱり多いですよね」

「ふふ、そうね」

「店長もそう思われるんですね」

「私はあまり興味沸かないけれど、数年前からね」


数年前から本格的に流行りはじめたのだと確信できました

みんなご自分のヒーローの方向性を見出しているんですね

そこまでこだわるのは逆にすごいかもと感心してしまった


「店長、ヒーロー協会ってご存知ですか」

「知ってるわよ」

「そこに受かると何かあるんですか?」

「珍しいわね、七面鳥の蒸し焼き娘ちゃんが気にするなんて」

「知人が試験を受けてくるというものだったので、気になってしまって」

「そういうことだったの、ヒーロー協会の試験に受かると…」


店長は丁寧に説明してくれた、それを踏まえて私は嬉しい気持ちになった

つまるところ、


サイタマさんが働く気になったということですね!

この数年、ニート…みたいなサイタマさんを心配してなくはなかった

もしかしたら、ジェノスくんのおかげなのかもしれない


ここのところ、二人で出かけることも多いみたいだし

受かってくれるといいなぁと純粋に応援したくなった




帰りにお店で余ったケーキを貰って、受かっても受からなくても

彼が社会へ一歩踏み出した勇気を称えようとお祝いすることにした

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