この想いの名前を


 


はぁ、と思わずため息を吐いた。今日は世間的に言う『バレンタインデー』であって、私も一応はチョコレートを作ってきたのだが見事に失敗して形が崩れておるがな。徹夜で作ったせいか、完成したチョコの形を見る間も無く死ぬように眠ってしまって遅刻、その上失敗ときた。これほど不幸なことは無いだろう。


まぁ、いいんだけどね。どうせ渡せないと思うし。


二回目のため息をついて鉄人に怒られつつ自分の席につく(と、言ってもちゃぶ台だが)。隣にいたムッツリーニがちらちらと私を見てくるので、何かな?と思いつつ見てみればすぐに目をそらした。
あ、チョコが欲しいのかな?でも、まだ駄目だよ。休み時間にね。


勉強だなんて集中して聞けるわけが無い。退屈すぎる休み時間が終わって、先生が教室から出た後すぐに、市販のチョコレートをムッツリーニに渡す。

「ほい、チョコ」
「……!!!」
なんだか凄く嬉しそう。そんなにチョコが好きなのか?のほほん、とハムスターのようにチョコを食べているムッツリーニに癒されながらのんびりと休み時間をすごそうとしたが、明久君と雄二君にもあげてくるか。
私は立ち上がって二人に近づいて見れば美波ちゃんと、瑞希ちゃんが明久君にチョコを渡そうとしていたのでそっと、雄二君にだけ渡すことにする。いいなぁ、明久君…あんな可愛い子達からチョコを貰えて。
………本人は本命だとは思いもしないんだろうな、天然だし。


席に戻ってみると、まだムッツリーニはチョコを食べていた。…どんだけだよ。そう突っ込みたいが生憎そう言うキャラじゃないので言わないことにする。

「瑠美、ワシにはくれんのか?」
「ひでよ、し…君」
うわああああ、渡したいのは山々だよ。だけど、本命のチョコは失敗しているし…市販のチョコはあるけどそんな手抜きだな、と思わせるものをあげるのは…。ぐぬぬっと三秒くらい考えて市販のを渡すことにする。

「はい、秀吉君」
「あ、有難うぞ!」
じゅわっ、と秀吉君の笑顔に頬が熱くなるのを感じる。
そんなにチョコが好きなの?そんな秀吉君が大好きだっ!!!って、何を言っているんだ自分。ぶんぶん、と頬の熱を冷ますかのように首を振る。秀吉君はきょとんとした可愛らしい顔で見てきて…も、もしかして変人だと思われた!?

「ひ、秀吉く―――」
「そろそろ、チャイムが鳴る時間じゃ。また後でな」
あぅーー!違うって言おうとしたとたんに秀吉君は席についてしまって、そしてそんな秀吉君を待ってたかのようにチャイムが鳴る。…はぁ、どうしよう言い訳できなかった!






そんなこんなで放課後まで秀吉君と会話できる時間が無くって、オレンジ色の夕焼けが見えるよ…母さん。どうしてこんなことになっちゃったのだろう、本命チョコが渡せなかったじゃないか!いや、自分のせいなんだけどね。心の中で自分に対しての愚痴を一分くらい吐き出して、ようやく落ち着くことができた。

「来年、は本命渡せるかな」
「誰にじゃ?」
秀吉君の声がした。幻聴?そんな間抜けなことを考えて声がした方向を見てみればそれは本物の秀吉君で、さっきのことが聞かれていたのを二秒後に気が付いて思わずムッツリーニのごとく首を横に振る。

「ひ、で…よし、く、ん」
「誰に、本命を渡すのじゃ?」
こてん、と首をかしげて聞いてくる秀吉君に思わずときめいてしまう。畜生、可愛すぎるのがいけないんだ!だけど、私には『本命を渡したいのは秀吉君です』だなんて言葉はいえないのだよ!

「内緒、です」
「教えてくれると嬉しいのじゃ」
「え、」
「教えてくれ」
「で、も」
「早く教えるのじゃ」
うう、口では秀吉君に勝てないよ…!!!

「ひ、秀吉…君に、です………」
人間って不思議なものだ、諦めたらすぐにぽろりと本音を言ってしまうのだから。…多分私だけだと思うけど。嗚呼、それにしてもそんな顔はやめてくれ秀吉君。ぽかん、と少し間抜けな顔をしている秀吉君を見ていたら羞恥心が…!!!!

「まこと、か?」
「ぅ…は、はい」
「嬉しいぞ!」

「…は?」
「実は、その…」
もじもじ、と恥ずかしそうに両手を合わせて、頬を赤くしながら華のような笑顔になって言った。

「わし、そなたのことが…好きなのじゃ」
え?夢じゃないよね?



2010 0214

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