人を殺せば罰を受けるが、巨人を殺せば英雄だ。父はそう笑って、そしてそのまま巨人の餌となった。彼は食われるその時に、一体何を思っていたのか。それを考えてみるのが最近の俺の就寝前の日課だった。
巨人に食われるというのは、一体どういう気分なのだろう。
俺はそれが、どうしても知りたい。
外に出て、真っ黒な空を見上げる。星がいやに綺麗だった。
「あれ、名前?どうしたの?」
「ああ、アルミンかぁ」
寝巻きに上着を羽織った彼は、不思議そうにこちらを見ていた。あれだけの訓練で、皆心身共に疲れている。故に就寝時刻には眠っている者がほとんどだったから、俺が何をしていたのかと思ったのだろうか。
彼は優しい。
「ちょっと考え事をしてたんだ」
そう答えれば、彼は不思議そうに首を傾げた。けれども、その内容に踏み込んでこようとはしない。アルミンのそういうところが、俺は好きだ。
小さく笑みを浮かべて視線を空に戻せば、彼も俺の隣に並んで、空を見上げた。
会話は無い。けれど、居心地が悪いとは思わなかった。
「俺の母さんが言ってたんだ」
アルミンがこちらを向く気配がしたが、俺は気付かないふりをして続ける。
「『死んだ者は星になる、星となり我々を見守っている。お前も見守られているのだし、やがては見守る側になるだろう』って」
「……それって、」
何か言いたげなアルミンに、俺は小さく笑う。
「昔から変な人だったんだよ」
食われちゃったけど、とは言わなかったがアルミンは察したのだろう。彼は優しく、そして聡明だから。
見上げた先の夜空にはいくつも星がまたたいていて、どれが自分の母親なのかなど俺には分からない。
「僕は」
「ん?」
「僕は名前に見守られたくはないよ」
「へ、」
アルミンの口から飛び出た言葉に目を丸くしていると、彼は少しも笑うことなく続ける。
「それに、名前を見守るつもりも無いから」
その時の俺はと言えば口をぽっかり開けて、我ながら間抜けな顔をしていたと思う。ただ、アルミンと目を合わせれば、それもすぐに引き締まって。何故だか自然に、口元が緩んだ。
「……死なないよ、俺は」
だからそんな顔をするなと笑って彼の頭を撫でれば、彼は遠慮なしに俺の手を払った。それが当たり前だと言われているような気がして、何だかおかしくて。俺はアルミンに小突かれるのも構わず、声をあげて笑った。
彼がそんな顔をするならば、それはもう仕方ない。巨人に食べられたいなんて気狂いじみた考えは、心の奥の方にしまいこんでおこう。
まあ、とりあえず、今のところは。