※兵長の昔馴染み設定
「死んだ先に、天国はあるんスかね?」
その瞳の奥に様々な感情を隠し、また、こいつは笑う。
押し殺した様な笑顔がいつだって俺は大嫌いだった。
「バカかてめえは」
「いだだだだだだだだだだだギブ!ギブッス兵長!」
足払いをしかけ、馬鹿な問いを口にした名前の体を容赦無く踏み付ける。
その馬鹿な問いは、ああ本当に馬鹿らしい。
『死んだ先に天国はあるのか』といったもので。
それを俺に聞く辺り、コイツの頭は湧いてるんじゃないかと思う。
「それを俺に聞いてどうする、死んだ先は楽園だ、だなんて馬鹿げた妄想言わせてぇのかてめえは。」
「違ッ!そうじゃなくて…痛い痛い痛い痛い痛い!!」
兵士の、しかも男にしては細い体。これで現在の調査兵団で最年少の分隊長なのだから驚く。
「…へいちょ。オレ、死ぬ。」
分隊長としてのプライドやら何やらも捨て、床に頬を押し付けながらぐすぐす下手くそな泣き真似をはじめた馬鹿な昔馴染みに少しだけ力を緩める。
「…違うんス。今すぐ死んで確かめたいとかじゃなくて。…ただ。」
「寂しくねぇかなって。」
ああ、お前は。
人類だけでなく、死者まで背負うと言うのか。
「名前」
「ははっ、リヴァイの言いたい事は分かってんだよ。本当馬鹿みたいだよな。」
まただ、またコイツは笑う。地下で腐った生活を送っていた時から何も変わらない。
誰よりも弱いクセに、誰よりも脆いクセに。
全てを背負い、何でもない様に笑いながら戦い続ける。
「分かって、るんだ。」
「…死は無だ。死後の世界には何もない。」
「…っ」
「だから。」
せめて少しの間だけでも、コイツが苦しむ事がないように。
「お前は死ぬな。」
片手で名前を抱き締めながら、いるハズもねぇ神とやらに祈った。
腕の中の身体が震えていたのは、恐らく気のせいではない。
戦い続けた先に。
(こいつは救われるのだろうか。)