その日は雨が降っていてとても煩わしかったのを覚えている。
買い出しに出て間も無く降ってきた雨。
傘などないし濡れて帰るかと思案していた時だった。
「リヴァイさん」
聞き逃せない声が届いた。
ざあざあと煩くて、木の屋根を忙しく叩く雨音なんて気にならないくらいの声。
ふっ、と詰まりかけていた息を吐いた。
横に顔を向ければ見慣れた顔がそこに立っていた。
「名前か」
「はい、名前ですよ」
緑色の傘を右手に差していて、左手には青い傘が一本。
勿論未使用なのだろう。真新しく見えるその青い傘を柔らかな笑みと共にこちらへ差し出してきた。
「風邪、引いたらいけませんからね?」
「…すまない」
いえ、と綻ぶ名前に思わず顔が緩む。
何故名前は傘を二本も持っていたのだろう、なんて考えるはナンセンスか。
大方エルヴィンかハンジら辺に自分ご傘も持たずに出かけていたなどと聞いたのだろう。
それでも出で来て迎えに来る目の前の存在が愛しくて堪らない。
外でなければ抱き締めてそのまま部屋へ連れて行く所だ、とリヴァイは考える。
まあ帰って可愛がればいいか、と思い息を吐くと心配そうにしている名前の顔が目に映った。
「どうしました?体調良くないですか?」
「いや、お前のことを考えていた」
素直にそう漏らすと、ぼんっと煙が出そうなくらい赤面している名前が見えた。
口をぱくぱくと開閉させ、目はきょろきょろと落ち着かない。
おもしろくてもう一度言うと、リヴァイの口を押さえてひぃひぃと声を上げる。
本当に愛らしいこの上ない。
「も、そんなことばっかり言ってたら今日は一緒に寝ませんからねっ」
ぷくりと頬を膨らませて可愛らしくない言葉を放った。
それは困る、安眠ができないではないかとリヴァイはそれ以上口には出さずにいる。
はぁ、と溜息を吐く最愛の手を取り歩く速度を上げた。
驚いたのか、何か声を出しているが聞き流す。
ぜいぜいと名前の呼吸が乱れてきたところで肩に担ぎ上げた。
「ちょ、ばっ、何してるんですか!?」
「この方が早ぇだろうが」
「だからって雨……」
「もう止む」
わからなかったが。
でもリヴァイにはそんな予感がしたのだ。
名前は日向のように暖かい。
だからそんな気がしたのだ。
こいつがいればきっと雨なんか止む、と。
わーわー言っている名前を余所にリヴァイは平然と歩く。
兵舎に着く前、思ったとおり雨は止んでいた。
「止んだだろうが」
「だからって担ぐ必要あったかな…」
はあ、と今度は名前が溜息を吐いた。
そんな表情も愛しい。名前の全てが愛しいと思える。
傘を畳み、急いで自室に戻った。
途中ハンジがうるさかったがど突いて沈めた。
「んぅっ……ぁっ…」
自室に入るなり離れられない程のキスをしてやった。
小さく漏れる喘ぎに堪らず夢中で貪った。
愛らしい犬
(な、な、何なんですか今日のリヴァイさんおかしいです!)
(テメェが可愛らしいことするからだろうが)
(理不尽すぎますよ!)