かわいさと殺伐の共存したものが好きだ。
俺がそんな事を言う度に幼馴染はいつも最高に最上に酷い頭おかしいんじゃねぇのか、という目で俺を見てくるからあまり言わなくなったけど。かと言って気持ちは変わらずに。だいたい、その代表が幼馴染なわけですし?


「名前」

ノックもなしに家のドアを開け放たれたらと思ったら名前を呼ばれた。相変わらず俺の名前を呼ぶ時だけそのつんけんした声音を僅かに和らげる幼馴染に、かわいい奴め、と口に出したら腹に一発重いのを撃ち込まれるだろう事を考えながら振り返る。

「リヴァイ、昨日ぶり。見ろし、チョコ盗って来た」
「お前それ好きだな」
「リヴァイも食べる?ブラックだぞ、ブラック」
「ん」

呆れ顔してた癖にブラックチョコだと知ったら寄越せとばかりに手を出して来るリヴァイに、俺は板チョコをパキッと割って大きい方をリヴァイの手の上に置いた。

「はは、餌付けしてるみてぇ」
「殺すぞ」
「えー、屠るにしてよ。屠るの方が響きがかわいい」

そんな戯言を吐きながら二人並んで小さな痛んだ窓から、王都の地下に広がる灰色のクズみたいなこの街を見上げた。見下ろしたのかもしれない。
幼い頃裏路地を潜って潜って辿り着いたこの空き家を勝手に使わせてもらい始めてから数年。未だに取り壊される事なく、俺とリヴァイにとって此処だけが本当の王国だった。

「なーリヴァイ。俺って平和主義じゃん?」
「寝言か?」
「いやいや真面目な話。貧乏人な俺にゃ最初から選択の自由なんてほとんどねぇし、生きるを選択したかったら盗みはどうしようもないってか…まぁ許せよ」
「名前を批難したつもりはねぇよ」
「そっか…そっか」

でも俺は出来るなら平和に盗みだってなく暮らしたくて、それをしない手段は死ぬ以外にも幾つかあったけどそれ等も俺は嫌で。
生まれ落ちての化物で人外な俺はこの力を表に出して生きる気はない。リヴァイが人間として強くなり生きやすくなっていくのを一番近くで見ていても。

「で、お前が平和主義ならなんだよ」
「んー…うん、俺は平和主義だけどリヴァイがどの道を選んでもお前だけを愛してるよ」
「……」

口を噤んだリヴァイは、呆れているのか照れているのか困っているのか、はたまた深く考えているのか。
この想いは愛にも近く恋にも近く情にも近く、けれどきっとどれでもない、この街と同じ灰色のくすんだ感情。狂犬を餌付けして優越感感じてだけどかわいくてかわいくて手放せなくて依存して愛して、ああ。
それでも俺は結局誰より強いから、お前の重荷にはきっとならないしなれない。だからただこの言葉だけを贈ろう。

「お前が死にそうだったら、この手を血に染めてやる。お前が死んだら、仇も取ってやる。それが平和主義な化物の俺の精一杯だ」
「他殺確定かよ」
「リヴァイが寿命で死ぬとこなんて全然想像出来ねぇもん」
「違いねぇ」

この灰色の街の中で、隣で笑うお前だけが色づいていた。

「じゃあ、お前が死んだら俺が仇取ってやるよ」
「はは、期待してる」

耳元で内緒話をするように笑って、俺を殺せるのはお前だけなんだけどねなんて真実を呑み込み穏やかな灰色の街をまた見上げ見下ろした。

これが、リヴァイが兵団に入るたったの一年前。俺がこれでもまだ正常に美しい心を持った化物だった時の話。

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