Santa Baby


クリスマスが恋人たちのイベントだなんて誰が決めたんだろう。
別に恋人なんていなくたって楽しく過ごせる。ひとりだって平気だし。
そう思って街に出てみれば見事にカップルばっかりで、途端に居たたまれなくなってしまった。
本来なら私もあっち側にいたのだ。
もう原因なんて忘れてしまうくらい、つまらないことで喧嘩をしたのがクリスマスイブの三日前。おとといのことだ。
それから私の携帯は一度も鳴らないし、自分から電話を掛けることもしていない。
クリスマス当日は平日で、その前日のクリスマスイブまでが三連休だということもあって、23日の夜に泊まりに来ると言っていた約束はなかったことになりそうだ。
家でひとりでだらだらと過ごすのもな。確かセールもやってたよね。
そう理由を作って来てみたショッピングモールの中央広場には、普段はない巨大なもみの木が設置され、イルミネーションできらきらと鮮やかに輝いていた。
いつもなら携帯で写真を撮るくらいのことはするけど、そこを黙って通り過ぎてお目当てのショップに向かった。

ショッピングモール内をあちこち歩き回って、気が付けば荷物が両手いっぱいになっていた。
冬物はかさばるし、重たくて、よく考えたらそんなに欲しくもないものばかり買ってしまった気がする。
店のロゴの入ったショッピングバッグの中のブーツは同じようなものを持っているし、ニットのワンピースだって好みの色じゃなかった。
こんな馬鹿げたことをしてしまったのも、全部赤也のせいだ。
いつもはすぐに謝ってくるくせに、どうして今回に限って。初めて一緒に過ごすクリスマスなのに。赤也の馬鹿。
少し休むために座ったベンチから見えるツリーのイルミネーションがにじんでぼやけていく。
それが余計に綺麗に見えて、なんだか悲しかった。
あぁ、こんなとこで泣いてたら本当に可哀相な人だ。やっぱり大人しく家にいたほうがよかったのかもしれない。
俯いて涙をこらえていると、聞き慣れた着信音がバッグの中から鳴り響いた。
この着信音を鳴らす相手はひとりしかいない。
バッグから携帯を取り出して画面を確認すると、やっぱり赤也からだった。

「……もしもし」
「あー、俺」
「…知ってる。何。」

少しだけ鼻声になってしまっているのがバレないように口を開く。
こういう時でさえ素直に、会いたいという言葉を出せない私は本当に可愛くないと思う。
仲直りしたいのに変な意地が邪魔をしてしまう。本当は年上の私が折れてあげなきゃいけないのに。

「なまえサン、もしかして泣いてんの?」
「泣いてない。泣く理由がないし」
「ふーん。…それにしてもすげぇ荷物ッスね。それ、ひとりで持って帰れんの?」
「え…?」

電話を耳につけたまま周りを見回すと、少し離れたベンチに赤也が座ってこちらを見ていた。
目が合うと赤也は携帯をポケットにしまって近づいて来る。
あまりにも予想外の出来事に、私の耳にはまだ電話がくっついたままだ。

「おーい?いつまで固まってんスかー?」

目の前に立った赤也の手の平がひらひらと往復して、やっと携帯を耳から離す。

「あ…あか、や…、何、してんの…?」
「ん?これ買いに来た」

そう言って差し出された箱には、この辺りじゃここのショッピングモールにしか入ってない有名店のロゴが入っていて、どう見てもクリスマスケーキだった。
あの店のクリスマスケーキは予約しないと買えないくらい人気で、かなりいいお値段だったはずだ。

「…予約、してたの?」
「まぁ、せっかくのクリスマスだし?でもどっかの誰かさんが素直じゃないから無駄になりそうなんだけどねー」

肩を上げておどけてみせる赤也の反対側の手には紙袋が握られていて、そこからは可愛くラッピングされた包みが顔を覗かせていた。
自惚れでもなんでもなく、それは私へのクリスマスプレゼントなのだと分かった。
さっきは悲しみで零れそうになった涙が、今度は違う意味で溢れてしまいそうになる。

「……赤也、意地張って、ごめんね。ごめんなさい。」
「お。今日はやけに素直じゃん。そんなにこのケーキ食べたかったんスか?」
「違うよ、ばか。……一緒に、うちに帰ってくれる?」
「しょうがないッスねー」

そう軽口を叩く赤也はケーキの入った箱を私に渡すと、足元の荷物を軽々と片手で持ち上げて空いている手を差し出してきた。

私なんかより赤也のほうがよっぽど大人だ。
年下の彼氏を尻に敷いてるつもりだった私は結局、赤也にわがままを言わせてもらっているだけで。
私がもう少しだけ大人になったら、この先もこうやってずっと一緒に過ごせるのかもしれない。
もしどうしても素直になれない時は。
その時は、また素直になれるきっかけを赤也が作ってね。
繋いだ手に願いを託して強く握ったら、赤也も少しだけ強く握り返してくれた。
見上げたクリスマスツリーは、さっきよりも何倍も綺麗に見えた。


Merry Christmas 2012
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