Happy New Year!


"着いた。さむい"

そのメールを見て、慌ててマフラーを首に巻きつける。
内側がもこもこのフェイクファーになっているムートンブーツを履いて玄関の扉を開けると、鼻の頭を赤くしたブン太がコートのポケットに手を突っ込んで立っていた。

「マジさみーんだけどー」

顔を合わせて一番最初に言うセリフがそれなのか、なんて思ったけど、神社まではブン太の家からのほうが近いのに、ちゃんと迎えに来てくれるあたりに優しさを感じたから野暮なことは言わないでおく。

「ブン太、明けましておめでとう。今年もよろしくね」
「おー、あけおめー、コトヨロー」

新年の挨拶は0時を回った瞬間にメールでもしていたけど、やっぱり顔を見て言うほうが新しい年の始まりという実感がある。
じっとしてるとさみーから早く行こうぜ、とブン太が白い息を吐きながら先に歩き始めて、その隣を並んで歩いた。

昨日観たテレビの話をしながら神社に向かって歩いていると、私たちと同じように初詣に向かっているであろう人たちが徐々に増えてくる。
それは家族だったり、友人同士だったり、カップルだったりと様々で、皆寒そうだけどどこか晴れやかな表情に見えた。

「ねぇ、ブン太はお雑煮食べた?」
「おー、朝食ったぜい。んで、昼にも食う」
「ふふ。お餅は何個入れたの?」
「おせちもあったから軽めに五個くれえかな」
「軽め、ね…」

相変わらずの食べっぷりに苦笑いが漏れてしまった。
何でも美味しそうに食べるブン太の姿に恋してしまったのは私なんだけど。
どれだけ食べられるのかなぁ、なんてお菓子をいっぱい用意してたら、いつの間にかブン太も私のところにいつも来るようになって。
呼び方も丸井くんからブン太に変わって。
今では女の子の中じゃ一番仲いいんじゃないかなって勝手に思っている。
クリスマスにもデートっぽいことしたし。
でも好きとか付き合おうとか言われたわけじゃないし、私からそんなことを言ったこともない。
言おう言おうと思っていても、いざチャンスが来るとなかなか口には出せなかった。

「うわっ、すんげー人いんじゃん。」

辿り着いた神社の境内は人が溢れかえっていた。
いつもは寂れた小さな神社なのに、今日は活気がある。
参拝の列に並ぼうとすると、ブン太が私に向かって手を差し出した。

「…ん?」
「はぐれちまいそうだから。手、早く出せよい」
「あ…うん、」

出された手を握ると、ふたり分の手がそのままブン太のコートのポケットに収められる。
これに、深い意味なんてないはず。ブン太が言った通り、はぐれないように。それに、寒いから。ただそれだけ。
分かっているつもりなのに、そう思えば思うほど、繋いだ手が熱くなってしまう。
どうしよう。普通にしてなきゃ。
恥ずかしくて、それからしばらくブン太の顔が見れなくて、口数も減ってしまった。
分かりやすすぎるな、私。

「順番もうすぐだな」
「そう、だね」

マフラーに顔を埋めながら返事を返す。
平静を装おうとしすぎて素っ気ない返事になってしまったかもしれない。

「……俺さー、願い事決めてたんだけど。願い事って人に喋っちまうと叶わないとかいうじゃん。」
「…うん」
「でも言わねぇと叶わないから先に言っとくわ」
「うん…?」
「お前のこと好きだから、その…、付き合って、くんねぇ?」

その瞬間、ポケットの中の手が強く握られて、顔を上げるとブン太は鼻の頭だけじゃなくて、頬まで赤くなっていた。
さっきまで寒かったのに、今は体の芯まで熱くて、頭から湯気でも出てしまいそうだった。

神様に聞いてもらうはずだった願い事が、思わぬ形で叶ってしまった。
新しい願い事は、返事をしてからふたりで考えることにしよう。


Wish you a happy new year 2013
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