二年越しのデート


たったふたつ。それはどうしても埋められない私と蓮二の歳の差だ。
18歳と20歳。
言葉にしてみるとそうは感じないその歳の差に、男子高校生、というキーワードを足してみると物凄く自分が歳を取ったように感じてしまう。
私だって2年前までは蓮二と同じ学校の制服を着て、同じ学校の門をくぐっていたのだ。
その頃はお互いの存在も知らなかったけれど。
それが、今はこうして付き合っているんだから縁というものは本当に不思議だ。

時間は誰にでも平等なんだからそれを羨むのは間違ってるって分かってはいるけど、同じ制服を着て蓮二の隣に座っている女子高生がいると思うと羨ましくて仕方がない。
一度、制服デートがしたかったと洩らしたら、
「では着てくるといい。まだ似合うんじゃないか?」
なんて言って蓮二は笑っていた。
確かに制服は思い出としてクローゼットの奥にしまってあるけれど、卒業式以来一度も袖を通していない。
もし本当に着てきてしまったら、蓮二は笑ってすらくれない気がする。ましてや私だって今さら制服なんか着る勇気はない。
それに別に制服を着てデートができればいいわけじゃなくて、一緒に授業を受けたり、テスト勉強をしたりして時間を共有したかった。そういう意味で言っただけなのに。

だからせめて少しでもそんな夢を叶えてみたくて、蓮二の部屋に大学に提出するレポートを持ち込んでみた。
そしたら驚くほど集中なんかできなくて。
ノートに向かって何かを書き込んでいる蓮二にばかり目がいってしまって、わざわざ持ってきたノートパソコンはまるで役に立っていない。
蓮二の睫毛長いな、とか、綺麗な手してるな、とか余計なことばかり考えてしまう。
そんなことをしてたものだから、私の視線に気が付いて顔を上げた蓮二は呆れた顔をしていた。

「…なまえ。レポートは終わったのか?」
「…まだ、です」
「提出期限は三日後ではなかったか?」
「ちょっと休憩を…」
「まだ始めて一時間も経ってないぞ?」
「…ハイ、ちゃんとやります。」

幸か不幸か、いつもこんな調子でどちらが年上なのか分からない状態だ。
蓮二が落ち着いているのか私が子供っぽいのか。
私が年上だということをそこまで卑屈に考えずに済んでいるのはこのおかげだと思う。
蓮二を眺めているだけじゃどうやってもレポートは終わらないし、終わらなければゆっくり過ごすこともできない。家や大学で大体は終わらせてあるから、さっさとまとめて蓮二と過ごす時間を作ろう。それだけを考えてパソコンの画面に向き直った。


カチャカチャとキーボードに文字を打ち込む音が耳につく。
自分が立てる音が気になりだしたら集中力が落ちてきた証拠だ。
画面下の時計を見ると結構な時間が立っていた。さすがに同じ体勢でいたせいか肩も張っていて痛い。
肩を揉みながらふと正面にいる蓮二を見ると、いつからそうしていたのか、頬杖をついて真っ直ぐに私を見つめていた。
口元は微かに微笑んでいて、間抜けな顔をしていたであろう自分が恥ずかしくなる。

「え…な、何…?変な顔してたかな?」
「いや……久方ぶりだと思ってな」

久方ぶり。
その言葉が意味するところに全く見当がつかなくて、首を傾げてみせると、蓮二は少し間を置いてから口を開いた。

「こうしてなまえを見つめているのが、だ。
なまえは高校の頃、よく図書館で勉強していただろう?」

そう言われて思い返すと、確かによく図書館に通っていた。
それは本を読むためでもなく、勉強が好きだったからでもなく、家だとテレビを見てしまって課題なんてやらないから、静かな学校の図書館でやってしまおうと考えてのことだった。
でも、どうして蓮二がそれを知っているんだろう。
同じ学校に通っていたと言っても、同じ学年ですら顔も知らない人間がいるマンモス校なのだ。
それに、その言い方じゃまるで。

「なまえは俺のことを知らなかったかもしれないが…俺は随分長いこと片想いしてたからな。
"制服デート"を本当にしたかったのはどっちだと思う?なまえの制服姿、まだ悪くないと思うが」

そう言って蓮二はまた笑った。
もしかして本当に着てきたら蓮二はこうして笑ってくれるのだろうか。
そんな馬鹿みたいな考えが、ちらりと頭をかすめていった。
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