『愛情表現』

シズちゃんはいつも、俺の心を掻き乱す。
そんなところが大嫌いで─、凄く大好きだなんて。
「本当にシズちゃんは…俺の心を掻き乱すのが得意だよねぇ」
高校生である折原臨也は、淡々とそう呟きながら─、楽しそうに、笑った。

昼休み、来神高校屋上。
「シズちゃんてさぁ…、単細胞だよね」
臨也がそう言うと、眼前の長身の少年─、平和島静雄は、こめかみに血管を浮き立たせた。
それだけで周りにいた他の生徒達は、巻き込まれないようにそそくさと屋上を去る。
屋上に残ったのは、臨也と静雄を除いて、一人だけになった。
「…臨也、それくらいにしておかないと静雄がキレるよ。もう、遅いかもしれないけどね」
一人残った、眼鏡をかけた少年─、岸谷新羅。
新羅は呆れたように苦笑いし、二人から距離をとった。
「臨也よぉ…。屋上から突き落とされても文句は言えないよなぁ…?」
臨也は背筋に嫌な汗が流れ落ちるのを感じながらも、笑いながら学ランの裾からナイフを取り出す。
「あはは。シズちゃんを落とすのなら俺は大歓迎だよ」
二人は対峙し─、どちらからともなく駆け出した。

「…これはもう止めようがないね」
そんな二人を見て、新羅は溜め息を吐いた。
そして二人から目を逸らし、空を見上げる。
仕事をしているであろうセルティの姿を思い浮かべ─、
「…あぁ、セルティは今日どんな仕事を受けるって言ってたかなぁ…。働くセルティ…、働いてるイメージが浮かんで来たよ?」
楽しそうに独り言を呟き始めた。
二人の喧嘩など、終わるまで新羅には関係なかったからだ。

「…い、ったー…。新羅、ちょっとしみるんだけど」
新羅が臨也の腕に消毒液をかけると、臨也は顔をしかめて言った。
「あとちょっとだから我慢してよ、臨也。静雄なんてナイフで刺されたのにもう元気なんだから」
「シズちゃんは異常なんだよ」
臨也は手当てして貰った腕を見つめ、溜め息を吐く。
「殺すつもりで刺したのになぁ…」
「あぁ?」
「何でもないよ」
臨也は自嘲気味に、苦笑した。
(…殺すつもりで刺した。でも、死んでほしくなかったのも事実なんだけどね…)
死なないと分かっているからこそ、刺すのかもしれない。
臨也はそんなことを思っている自分に気付き、嫌そうに考えを掻き消した。

「…新羅、飲み物とか持ってない?喉渇いた」
「飲み物?はい、これ」
新羅は近くに置いておいた袋から紙パックの飲み物を取り出すと、臨也に手渡した。
「…あー、疲れた」
臨也が忌々しそうに呟き、ストローを啜ると─、
「わ…っ!?」
それを急に、静雄が奪い取った。
「ちょ…、何してるのシズちゃん」
静雄は何処か不機嫌そうに、無言で飲み物を飲み続けている。
(というか、間接キスなんだけど)
静雄の行動の意図が読めず、臨也は首を傾げた。
「静雄って、意外に可愛い性格してるよね」
新羅は、臨也にしか聞こえないくらいの声の大きさで、呟く。
「え?」
「嫉妬は一番人間らしい性格だと、俺は思うよ?」
新羅は楽しそうに、臨也と静雄を見つめて─、笑った。

放課後、来神高校教室。
「…シズちゃん、まだいたんだ?」
教師に頼まれごとをされた臨也は、さっきまで職員室にいた。
気が付くと大分外が暗くなっていたので、もう誰もいないだろうと、そう思っていたのだが。
「遅かったな、臨也」
教室に帰ると─、静雄が机にもたれかかって立っていた。
「…待っててくれたの?」
臨也はそう訊き、首を傾げた。
「臨也にすることが残ってたんだよ」
「すること?…まだ殴り足らないの?」
臨也が呆れて、そう溜め息を吐くと─、

「違う」

静雄は臨也の頬に触れ、そのまま、臨也の唇に口付けた。
「…、…ん…っ!?」
臨也は最初、何が起きたのか理解できず、ただただ呆然と静雄の顔を見つめ─、ようやく我に返る。
静雄の体を押し返そうとも思ったが、その前に静雄が臨也から離れた。
「…じゃあな、臨也」
静雄は素っ気なくそれだけ言うと、そのまま振り返ることなく、教室から出て行った。

「…意味、分かんない」
臨也はようやく、静雄の姿が完全に見えなくなってから、それだけ言うことが出来た。
そして、真っ赤になった顔でキスされた唇に触れ、

「また、俺の心を掻き乱して、さ…」

臨也は、嬉しそうな響きを含ませた声で、そう、呟いた。

相互記念に海さんよりいただきました来神静臨です!
うおおおお来神!来神!犬猿コンビとそれを見守る新羅さんの図が大好きです!
あと放課後の教室でボーイズにラブるのは男子高校生の義務ですよね!異論は認めない!

海さん、素敵な小説ありがとうございましたー!

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