*獄寺

笹川を十代目がおんぶして、黒川が横についた。
そして案の定、教師がいつまでたっても教室に行かない俺達を探しに廊下までやってくる。


「悪いな、頼んだぞ獄寺!」
「はいはい。」
「………もう、惑わされんなよ。」
「そこまで…馬鹿じゃねぇよ、俺は…」


俺は高良を姫抱きにすると、急いで屋上に上がった。
高良は、裏切り者なんだ…。悔しい。殺したいくらいに、高良が憎い。
なんだ、俺もあいつらと一緒だったな。

なのに、なんでだろう。


「高良…?」


嫌いになれない。心の中で高良を信じてる。


「意味わかんねぇ…前は、高良の事疑って…今は、高良の事信じてるなんて…」


矛盾しすぎて、おかしくなりそうだ。
俺や笹川…さらには十代目にまでにあんな酷いこといって、笹川を突き飛ばしたのに。

なんでだろう?高良が嫌いになれない。

どうしても柴屋を信じられない。


風が吹く。


「高良…」


真っ白だったあの綺麗な顔。俺がこんなにしてしまった。
どうしようもなく罪悪感を感じる。


「高良………」


何度よんだって、起きる訳ねぇのに。
名前を呼ぶたびに愛おしさを感じる。悪いのは高良だって頭の中ではわかってるのに。


「高良………ごめん…」


勝手に、謝っていた。
涙を流していた。
あいつを抱きしめていた。


「好きだ…高良……」


意味がわからない。
嫌いなのに、憎いのに、悔しいのに…

行動と気持ちが一致しない。

なんで、涙なんか出るんだよ。
なんで、こんなに大事そうに高良を抱きしめるんだよ。
なんで、こんなにも愛おしいんだ…

だから、ここで初めて気付いた。いや、『認めた』。
俺は高良が好きだ。仲間としてじゃない。女としてあいつが好きだった。


「ありがとう…ごめん…」


意味わかんねぇよ、マジで。

高良を殴ったこの手を、へし折りたくなるなんて。
こんなにした自分を殺したくなるなんて。

今の俺は、矛盾だらけ。
屋上にあった水道でハンカチを濡らし、高良の顔や体を吹いた。

小さくうめく高良の声。
痛いんだろうな……傷口に触れるだけでも痛いのに、水で濡れて風が当たるなんて。


「…っ……京…子……?」
「!!!」


そっ、と日蔭に横たわらすと、俺は慌てて屋上から逃げた。
高良が、俺の姿を見ないように。



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