Mermaid 39
「鋼牙、どこまで行くの?」
「いーから!ついて来い!」


二人は止まることなく走り続ける。


「わ!急に止まらないでよ…」
「着いたぞ!」
「え?」


そういい辺りを見渡すが、何もない。あるのは一面の降り積もった雪と、海だけ。


「何?」
「深呼吸して?んで、もう一度辺りを見回してみろ。」


サハラは鋼牙に言われるまま、深呼吸をし、辺りを見回した。


「………あ、分かった。」
「綺麗だろ?」
「うん。スゴイ綺麗。」


サハラの目に映るのは、満天の二つの空と、それを縁取る白い雪。
そして、快晴の空と澄み切った空気。海には、月と、あまたの星が映っていた。


「サハラはほとんど冬の海は来た事ないんだよな!」
「うん。南の方で生まれたから。」
「紅葉だって、いつも通りの空にだって、サハラは感動するからさ、二つ月夜を見せれば絶対に喜ぶと思ったんだ。」
「うん、うれしいよ。凄く嬉しい……」


そう、時間を忘れ、立ち尽くした。
指先が氷のように冷たくなっても、それに気付く事さえせずに見つめ続ける。





「………」


冷たい風が、サハラの髪を靡かせた。
ふわりと、鋼牙の手にサハラの髪があたる。


「!!、おい…サハラ…」
「んー?…何?」

ぎゅっ

「ん?」


サハラの手をにぎった。


「手、すげー冷えてるじゃん!」
「あ……本当だ。…寒っ!」
「悪ィ…寒いよな。」

すっ…キュッ


後ろに回ると、華奢な体をそっと抱きしめた。


「…こんなんじゃ、暖かくなんねーか。」
「充分、暖かいよ。」


寒いはずの冬の夜。
彼女の体は、鋼牙と同じ体温になって、ほかほか温かくて、

冷たいはずの夜風は、
温かい空気とかわって、二人を包んでいた。






今もなお、二人は飽きもせず二つの海と空を眺めている。


「鋼牙、」


そんな時、ふいに、サハラは言葉の名前を呼んだ。


「ん?」
「………」
「サハラ?」
「やっぱり、なんでもない。」
「なんだよそれー」


こんな素敵な場所に連れて来てくれて、私の体を抱きしめてくれて…そんな鋼牙の一つ一つの行動が、たまらなく嬉しいよ。

そう言おうとしたがやめた。
改めて言うなんてそんなのらしくない、と。


「帰ろうか。」


白い息と一緒に言葉を吐き出した。


(あまりに綺麗で、澄み切った景色は、何故か私を素直にさせてくれる。)
(突然なんかじゃない。いつだって思ってるよ。)
(鋼牙、ありがとう。)


(絶対に、言わないけどね。)





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