vampire 77
【総督の娘】

調度宝と獄寺がジェット機に乗っていたその時、エリザベスははっ、と目を醒ました。


「朝…かしら……。」


部屋の中は薄暗く、石油ランプの小さな明かりが灯っているだけ。耳を澄ましてみても物音一つ聞こえない。

(夢を見ていたんだわ。)

エリザベスはベットの脇のテーブルに置かれたランプを掴むと、ベットから下りて化粧台の前まで歩いていった。
化粧台の引き出しをあけると、まずは宝石箱を取り出し、その下に隠してあったものを手にとる。


「…………ウィル……」

8年前、ウィル・ターナーが首にかけていたあの金のメダルだ。
その黄金の輝きは今も全く失われておらず、メダルの表面に刻まれた不気味な髑髏があの時とオナジヨウにこちらをじっと見つめている。


(これを手に取る度に、あの日の事を思い出す…。)


エリザベスは鏡の前にたち、長い髪を後ろにはらってメダルを首にかけてみた。


(ウィルの事…赤く染まった、あの灰色の海の事…)


8年前、まだ12歳だったエリザベスも二十歳になり、見違えるように美しい娘に成長している。


(そして、大好きな私の妹。宝……。)


「宝、どうして姿を消してしまったの…?」










コンコンッ


「!!」
「エリザベス!私だ。入ってもいいかね?」


ふいに、ドアをノックする音が響いた。どうやら父親のスワン総督が尋ねてきたようである。
エリザベスはあわててガウンをはり、首にかけたメダルを隠した。

あの赤い海の日と同じように。


「ええ、どうぞお父様。」


エリザベスが答えると同時にドアが開き、スワン総督が二人のメイドと共に入って来た。メイドの一人は大きな箱を抱えている。


「まだ寝ていたのか?いい天気だぞ。」


もう一人のメイド、エストレーリャが厚いカーテンを開けた。その途端、まばゆい朝日が入ってきた。エリザベスは思わず目を細める。
高台にある総督公邸からは、ポート・ロイヤルの町とその先に広がる青い海を見渡す事ができた。



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