vampire 557
10/03 (日) AM04:15
まだ日が昇りきらない曙。10月の冷たい風と薄暗い空を横目に黒陽アジトからクローム、城島くん、そして山本がやって来た。車イスに点滴を取り付け、カラカラと静まり返った病院を歩く。
「獄寺くん、大丈夫?」
「はい」
「気分が悪くなったらすぐ言ってね?本当は絶対安静なんだから」
「ええ、分かってます」
体を起こしただけで辛そうだった。出来ることなら獄寺くんが何を言っても病院から出す訳にはいかないけど、それ以上に今は宝に会わせてあげたいという気持ちが大きい。
(でも、無理させないようにちゃんも見ておかないとな。)
「二人とも、こっちら」
一階のロビーにつくと城島くんが手招きしていた。
「入口あっちだよ?」
「点滴をつけた患者がこんな時間に外に出ようとしたら止められるに決まってるびょん。管理人用入口から出る。」
「えっ、どうしたの城島くん!?!?」
「失礼な奴らな!」
「ツナっ早くしないとだぜ!!」
「あ、うん!」
ひょこっと城島くんの後ろから現れた山本に急かされ、用意してあった車に乗った。運転主はなんと…城島くん!!ちなみにクロームは幻術の力で獄寺くんのカモフラージュをしている。
「車…運転できたんだね」
「当然らびょん、お前等とはくぐってきた修羅場の数が違うんら」
「ちなみにさっきの管理人用出口云々は骸の受け売りだけどな」
「だよね…安心した」
「だからどーゆー意味らびょん!!」
城島くんの運転は、見かけによらず獄寺君を労るかのような優しい運転だった。
「あ、そうだ、獄寺くん」
「?、はい」
「先に言っておくけど、その…宝が死んだなんて信じられないかもしれない」
「え…??」
「本当に眠っているみたいなんだ。腐敗とか全然してないからさ…」
「!!」
「いっそもっと死体らしかったら諦めが着いたかもしれない」
「………。」
それは、宝が吸血鬼だからだろうか。ーー後ろから蚊の鳴くような小さな声で彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。
*獄寺
15分後。ボンゴレ所有のホテルに到着。書類整理で何度か目にした場所だ。書類の写真よりずいぶんと冷たい印象があるのは俺の心理状態が影響してるからだろうか。
ゆっくりと山本が俺の車イスを押す。小さな揺れから傷に刺をさしたかのような痛みが響いた。
「お疲れさまです。」
「警備ご苦労様です。宝のとこまでは俺が案内しますから大丈夫です」
「恐れ入ります」
十代目、すっかり立派になられて…。少し前ならそんな感嘆のため息の一つでも漏らしていただろうが、生憎今はそんな気分じゃない。エレベーターが開く。その開閉と共に生暖かい空気と冷たい風が吹いてきた。部屋から冷気が漏れているんだろうか、いやこれはそういう風じゃない。
ドアの前まで車椅子を押される。冷気なんかじゃない。あいつが呼んでるんだ。
「日和…」
「あ、ちょっと待てよ獄寺!まだ歩くにゃキツいって!つーか点滴っ!」
確かに背中には激痛が走り、腕からつながれたチューブはわずらわしかったが、そんなことは瑣末な事だ。
「お、おいっ!」
ドアを開ける。冷たい空気がピリリと俺の体を通り抜けた。
ああ、やっぱり俺は日和に会いたかったんだ。
あと少しで日和に会える、それだけでこんなにも高揚してるんだ。そこにいるのは既に"日和"ではないのかもしれないけど、それでも…
「ーー!!」
白いシーツに浅葱色の髪。
あれは間違いなく、
「日和…!!」
あいつだ。
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