vampire 9
勢いよく階段を駆け上がるとそのまま屋上に飛び込む。同時に授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
ギラリと光る太陽が眩しい。しまった…私は太陽にはすこぶる弱いっていうのに日傘を教室に忘れてきたらしい。当たり前だが屋上は教室にいる時より日差しが強かった。
日に当たったら即灰になったりはしないが余り長い間日に当たってると頭がクラクラする。そよ風は気持ちいいのに残念だな。

ため息とともに日陰を探すべく屋上に視線をすべらすと、少女マンガによくある偶然が起きていることに気付いた。

「……………。」
「おいおい、嘘だろー…」

甘い匂いの彼がひっそりと眠っていた。首筋もがら空きで、…目眩がする。
とりあえず獄寺くんと間をとる。日光が肌を焼いてピリピリする。ああ…もう帰るか。よしそうしよう。カバンは…まぁいいや。早急にこの場を去ろうとフェンスをよじ登っていると、彼のけたたましいほどの叫び声が聞こえた。

「おおおお前何してんだよ!?」
「え、いやぁ……てか寝てたんじゃなかったの!?」
「お前が来てるのに俺が気付かないわけないだろ!つか早まるな!!」
「は?」

バーンとタックルされてそのまま馬乗りにされる。

「やば……」
「絶対離さねーぞ」

ち、近い!甘いよ…!!

「今、獄寺くん、襲ったら…私痴女かな…?」
「何訳わかんねー事言ってんだ!いいか、お前にはまだ」
「うぅ……」
「なぁ!?」

歯が、疼く。
手で口元を覆うがその手もガタガタと震えてしまった。マントを羽織って背中には蝙蝠の黒い翼…そんな絵にかいたような吸血鬼にはならない。人間との交配の末吸血鬼としての強力な遺伝子は弱くなってしまった。それでも…やっぱり血がほしい。

「お、おい、大丈夫か?どうした?」

どうしようどうしよう…!!

「どっか頭打ったか?」
「獄、寺…くん…」
「?」
「あの、私、自殺する気なんてないから……」
「え、でもお前さっき」
「私の前から消えて…!!」

グヂッと腕から嫌な音がする。爪で肌を引き裂く。痛みで理性を維持しよう。

「おい、何やってんだよ!!」
「か、関係ないでしょ…」
「お前、あぁもう馬鹿!!腕上げろ!動脈まできれてんじゃねーのか!?」

馬乗りをしていた彼は私から退くとそのまま私の上半身を起こさせて、私が噛みちぎった左腕に彼のあろうハンカチを当てる。

「よ、余計な事しないで!」
「ふざけんな!!」
「っ!!」

彼の声はあまりにも必死だ。

「そう簡単に死のうとすんな!俺でよけりゃ悩みくらい聞いてやるよ!」
「……はは、優しいね。」
「十代目から聞くお前はいつも笑顔だったって聞いてたぞ!俺じゃなくても十代目や…笹川だっているだろ!」

そんなのわかってる。でも根本的に違うんだよ、だって私は、吸血鬼だもの。

「誰も…本当の私なんか受け入れてくれないよ」
「だから」
「獄寺くんが悪いんだよ。私の前から消えてって…言ったのに…。キミのせいだ。」
「…何、言って」
「私はまたひとりぼっちになる」


サヨナラ、理性。
私は頑張ったよ、でももう限界。

一時の快楽のために、今の居心地の良い環境を捨てるよ。



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