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近づいた瞬間、


「...あ」
「どうしたの、たまちゃん」
「忘れ物をしてしまいました、名前さん先に屋上へ向かっていてください」
「えっ、う、うん」

途中まで上がっていた階段を立ち止まるたまちゃん、ダメなんて言えずに頷くと綺麗に微笑んで下って行ってしまった。自分も戻るか、なんて一瞬過ぎったがあの上にどんな事が待っているのか気になってしまい、また足を上へ踏み出していく。
学祭も終わりに近付き、他の人たちも各々後夜祭へと向かっていた。グラウンドではキャンプファイヤーが行われていて、これから花火も上がるらしい。このイベントが終わってしまえばもう受験勉強を頑る日々になってしまう。

先生の「いい事」なんて、想像出来ないけど。
あの上にもしかして銀髪が揺れていると考えたら、降りるという選択肢はなくなった。
最後まで上がってそっと扉に手をかける。

「...失礼します」

職員室に入るみたくかしこまって扉を開くと、あの愛しい愛しい背中が見えた。まさかほんとにいるなんて思わなくて、条件反射でドアを閉めようとしたら腕がぶつかりガシャン、と音を立ててしまう。

「っ...」
「あ?」
「あっ」

ゆるりと振り返ったその人は、昼間と変わらず気だるそうで。「よ」なんて手を軽く振ってくれる。

「そんな所突っ立ってないで来いよ」

ここ、とポンポンと先生の隣を叩かれた。
と、隣!?なんて内心驚きながら震える足でそこまで歩く。一人分の隙間は、どうしで埋める勇気がなくて。

「今日は星が綺麗に見えそうだな」
「晴れてましたもんね」
「たっく...お陰で人が多くて大変だったぜ」
「...寝てませんでしたか?」
「......」

唐突に黙る先生。
ん?と思ってそちらを向けば、先生は何だかイタズラっぽい笑顔を浮かべて頬ずえをついていた。

「やーっぱり、お前だったんだな、教室来たの」
「...っ」

ずるい。
分かってて、言わそうとしている。
もしかして、気持ちも、全部、知ってて。
知ってるから。そんなの、ずるい。
何も言わずに顔を熱くしていたら不意に先生の手が近づいてきた。待って。

《パーーーン!》

大きな音と共に空に大きな花が咲く。
先生の顔がさっきよりもくっきりと見える。
いつもより、大人っぽくて、温かい笑顔。
こちらに伸ばしていたはずの手がいつの間にか引っ込んでいて...、

「な、良いことあったろ」

花火、真横から見たことあるか?
なんてそんな言葉すらも入ってこないでひたすらに熱くなった頬を冷ましていた。


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