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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -
ぴり、と音がしそうなほど大胆に裂けた。
何がって、唇が。

「いっ、っ」

寒くなってくると乾燥もひどくなるのはよく知っていたけれどその対策をする暇はなくて、自分の美容をなんとかしようとするよりも少しでも体を休めたいという気持ちが先立ってしまう。今だって洗濯物を干し終わっておば達から頂いたお菓子に舌鼓、うん、おいしい。
甘い味に混ざって微かに鉄の味がして微妙な気持ちになるけど生憎今はリップクリームを持っていない。そもそもリップクリーム買ってたっけ。

「名前ちゃん、隣いい?」
「山崎さん、お仕事終わったんですか?」

後ろからあんぱんを持ってひょっこり顔を出したのは先日監察の仕事で出ていたはずの山崎さんだった。監察の仕事をする時はいつも早くても1週間はかかるからこんなに早く帰ってくるなんてめずらしい。私の問いかけに山崎さんは困ったように笑うとあんぱんの袋を開けた。

「それがガセネタだったみたいで、全然関係なかったんだ。買いためたあんぱんは無駄になっちゃったしツイてないと思ったけど一緒に食べる人見つかって良かった」
「あはは...あんぱん以外も食べてくださいね。張り込みは終わったんですから」
「うん、今日は鯖の味噌煮だって?楽しみにしてるから」
「腕によりをかけて作りますね」

ありがとう、と言って微笑む山崎さんは地味だとか存在感ないとか言われているのが信じられないぐらい綺麗で何だか恥ずかしくなる。
山崎さんはあんぱんを咀嚼しながら他愛のない話をたくさんしてくれる、張り込み先に咲いてた小さな花に癒されたとかちょくちょく様子を見に来る土方副長が出前をとり始めてイラッとしたとか。小さな事から大きな事までたくさん。
その話を心地よく聞いていた私だがふと山崎さんが首を傾げて私の顔を覗きこんできたから思わず背中が仰け反る。

「!?」
「名前ちゃん唇切れてる?」
「え?あ、乾燥してるので...」
「血が滲んでる…リップクリームとかは?」
「も、持ってなくて」

近い、近いです山崎さん。
しゃべる度に吐息が頬を掠めて肩が震えた。

「ちょっと待ってて」

山崎さんは立ち上がるとどこかへと歩いていき私は詰めていた息を通わせる、びっくりした、恥ずかしい。いきなり距離詰めてくるのは反則すぎるよ。
顔を扇いで赤みを落ち着かせようとしていたら山崎さんがお待たせ、と言いながらまた隣に座った。手にあるのは台所にある瓶に入ったはちみつ。

「はちみつ唇に塗ると良いらしいよ」
「あ、そうなんですか…?」
「うん、塗ってあげようか?」
「へ!?」
「塗りすぎてもあれだしさ」

含みのないような笑顔、だけど私には刺激が強すぎる。山崎さんはあくまで善意でやってくれるって言ってるわけだしここで断るのは申し訳ないし...なんて心の中でたくさん言い訳をしてこくりと小さく頷いた。

「はいよー」

優しげな返事と共につ、と指についたはちみつが唇につけられる。山崎さんの指先の熱でじわじわと溶けていくはちみつとゆるゆる傷口に擦り付ける動きをする指先の感触に反応してしまいそうでぎゅ、と目を閉じた。また距離が近くなってるのか吐息が頬にをくすぐる。ううう、早く終われ早く終われ早く終わ、……

ふに、と何かが唇に触れた。
それは指先というには柔らかくて、何だか少しだけ甘くて、うっすら目を開けようとしたらそれを咎めるかのようにぺろりと何かが唇を軽く舐める。

「ひゃっ…!?」
「…………やべ」
「……や、や、山崎さん?」
「…………ご、」
「ご?」

「ごめんなさいぃぃぃぃぃい!!!」

顔を真っ赤にしてそう絶叫したと思ったら山崎さんはどこかへ走り去ってしまった。
ごめんなさいって、それよりも言うべき言葉があるんじゃないですか。私は唇を少し舐める、口に広がるのははちみつとあんこの味。

「…………あまい」

title by確かに恋だった それは甘い20題