×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
(一応前作の不意打ちの続きもの)
夕暮れ時、屯所の南側の廊下の端。
ここが私の休む場所だった。
誰にも知られずにひっそりと本を読んだり黄昏たり少しだけ弱音を吐いたり。その日も柱に持たれて目を瞑っていたら誰かが近づいてくる気配がした。目を開けるのも億劫だったからそのまま黙っていたらその人はふ、と私の顔を覗き込む。その時、何故か分かった。

「(終さん?)」

匂いとか、空気とか、そういうのじゃなく終さんだと気付いた。顔にかかった影はしばらくゆらゆらと動いていたがやがて私の隣に座る、そして小さな寝息をたてはじめた。…終さんも眠る場所とか探してたのかな。そっと薄目を開いて見れば終さんは安心しきった顔で静かに眠っていた。

困るなぁ、そんな簡単に隣に座られたら。

目を閉じて、小さくため息をつく。
関われば関わるほど終さんは楽しい人で、でもすごくカッコイイ。一度町で浪士に絡まれた時に颯爽と現れて助けてくれた時はもう鳥肌モノだった。カッコイイとか強いとか思った事は色々あったけど、いつもは優しく私を見つめているあの赤い瞳が鋭く細められていて目にも止まらぬ速さであっという間に浪士を蹴散らして。でも怪我をしていないか確かめる時はすごく焦っていて、すごく愛しいと思った。

「(なんて、口が裂けても言えないけど)」

終さんは真選組の隊長で私はただの女中だから。
きっと伝えてはいけない感情だから。

そこまで考えてふと隣の温もりが動くのを感じた。
起きたのかなと思うまもなく頬をするりと撫でられて思わず睫毛が震える。大丈夫、だよね。バレてないよね起きてるって。
痛いほど感じる視線が辛い。
たぬき寝入りしてるってバレたらどうしよう。
でも何度も何度も頬を撫でる手が優しくて、何だかほんとに眠くなってくる。何でこんなに壊れ物を扱うように優しく触れてくれるんだろう。
終さん、あなたにとって私って何なんですか。


名前が起きていると終が気付いたのは自分がたぬき寝入りをして彼女が目を開けた時だった。仕事柄か視線や話し声に敏感になっている終は名前が目を開いた時にすぐに気付いた、もしかしてどこかへ移動してしまうかもしれないと危惧したが彼女は何も言わずに隣にいる事を許してくれた。

終はそろりと目を開けてまた目を瞑っている名前の顔を見つめる。長いまつげが頬に影を落としていて素直に綺麗だと感じた。
そっと右手を伸ばして柔らかな頬へと触れればぴくりと睫毛が震える。起こしたかと内心ビクビクするが彼女はやはり目を開けない、寝たふりなのはもうバレているというのに。触れることさえも許してくれている。

「………」

素直に喋ることが出来ない自分の傍で笑っている名前がいつしか大切になっていて、でもそんな事を伝える勇気はなくて。
隣にいて、たまに一緒の時間を共有できるだけで良かったのに。それなのにここまで許されてしまうと、期待してしまいそうになるから。溢れてしまいそうになるから。
彼女は自分をどう思っているのか知りたくて。
でも知るのが怖くもあって。

次にあなたが私に触れる日が来たなら、
次に自分が彼女に触れた時に目を開いたなら、

視線を絡めて聞いてみようか。
もう1歩この距離を縮めてみようか。

_______
コンセプトは絡まない視線。

title by確かに恋だった それは甘い20題