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きっかけは袖のほつれだった。
いつもきっちり着こなしてる彼の隊服の袖から糸が出ているのを見つけて、ついいつもの癖で「直しますよ」と手を伸ばした事がある。
無言で隊服を脱いで渡してくれたからそのままほつれを直して返して、それで終わりのはずだったのだが……その次の日から斉藤隊長からの視線をものすごく頻繁にキャッチするようになった。

「……私、何かいけないことしましたかね」
「いや終兄さんはシャイなだけだから話しかけたくてもうまくいかないだけだろィ」
「…………いっそ腕とか引かれた方がまだ気が楽なんですが」

並んで座りなから食堂のおば様達にめぐんでもらったお菓子を2人で食べながらここ最近の悩みを沖田さんに打ち明ける。他の人達より歳が近いからか結構話しやすいし、沖田さんも私といる時はあまり過激な発言や行動はしない。でも今沖田さんの話はどうでもよくて、

「睨まれてるってわけじゃないんだろ」
「うーん……多分?」
「気にするこたァないと思うがねィ、桂の潜入事件があってから兄さんも少し打ち解けてきたし」

そう、つい先日柱という名で攘夷志士の桂小太郎が屯所に潜りこんで内部から瓦解させようとする何とも大胆な事件があった。斉藤さんにあらぬ疑惑が掛かって色々大変だったけど今はもうその余韻も落ち着いてる、屯所は一部爆発したけど。許すまじ桂。
でも桂と関わったことで斉藤さんにも何か変化があったのか一日中部屋にいるという事はなくなった、だから私が袖のほつれに気付いたのだけれど。

「ま、何かアクション起こしてきたらちゃんと応対してやれな」
「…………はぁ」

沖田さんとこんな会話をしてから3日後。
私は斉藤さんの部屋の中で硬直していた。

「…………これ、は」

洗濯物を置いて出ようと思っていたのだが机の上に無造作に置かれた日記に目を奪われて好奇心で覗くと、真っ白なページにポツンと"名字名前Z"と記されていた。
え、何これZの意味はなに?完成したらどうなるの、死ぬの?デ○ノート的なアレなの?
謎の言葉に目を奪われて固まっていたら背後でカタン、という物音がして勢いよく振り返れば案の定斉藤さんが立って私を見下ろしている。直感でマズイと感じた私は洗濯物を斉藤さんの腕に押し付けると「洗濯物を持ってきました夕飯ももうすぐ出来ますので是非食堂に来てください」とノンブレスで言い切って部屋から逃げるように出ていった。


それからほどなくしてあのノートの事を考えすぎた私は知恵熱を出して喉をやられるという何ともアホらしい症状に見舞われてしまった。
喉が痛くても熱はないから仕事を休めないしマスクしながら働いていたら、誰かが肩をトントンと叩く。

「?」
「…………」
「!!?」

真後ろにいたのは私の悩みの種の斉藤さんで思わず仰け反りそうになるのを何とか堪えて手元のメモ用紙に"どうかしましたか"と書いて斉藤さんに見せれば、今度はトントンと自分の喉を人差し指叩いた。……これは、喉どうかしたのかというジェスチャーなのかなと解釈して再びメモ用紙にペンを滑らせる。

"風邪引いただけです"
「…………!」
"大丈夫です"
「…………、……」

斉藤さんはしばらく考え込むようにして立ち尽くしていたがやがてバタバタと慌だたしく廊下を走っていくと、30秒ぐらいで再び戻ってきた。そして私の手に大量の色とりどりの飴を乗っけ始める。
イチゴ、リンゴ、ブドウ、ミルク、薄荷まである。
ほとんどがのど飴だ。……もらっていいのかな?という意味をこめて斉藤さんを見れば何かが伝わったかのように何度と頷いている。

"ありがとうございます"
「……(コクリ)」

……気難しいとか、怖いとか、色々掘り下げちゃったけどただの考えすぎだったのかもしれない。
自分が声出せなくなって初めて気付いたけど、声が出せなくても案外気持ちは伝わるみたいだ。斉藤さんだってよく見れば、…………よーーーく見ればそれなりに態度に出てる。それにちょっと可愛い。
思わずクスクス笑っていたら斉藤さんがコテ、と首を傾げてそれがまた可愛くて笑えた。一通り笑い終えてから私はまたメモ用紙にペンを走らせる。

"何かご用ですか?"
「…………」

斉藤さんは一瞬目をそらすと意を決したようにノートをバっと目の前に差し出した。

「(……ノート?)」
「…………」

受け取って見るとそれはまだ使われていない新品同様のノートで、所々に可愛い動物のマスコットが散らばっている。斉藤さんが何でこんな可愛いノートを……と思いながら試しに一ページ目を捲るとそこにはいつだったか見た事がある字体で数行の文章が綴られていた。

"あなたと友達になりたいんだZ
交換ノートからお願いしますだZ"

………………。
友達、交換ノート、……友達??
見慣れない単語に何度も何度も目を走らせて確認するがそこに書かれている文字が変化する事はない。
ここ数日感じてた視線も、あのノートに私の名前が書いてあったのも、全部全部友達になりたかったから?

「(っ……なにそれ何か可愛い…!!)」

緊張してるのか視線をさ迷わせてる斉藤さんが可愛い小動物に見えてきた。あんなに怖いとか思ってたのか嘘みたいだ。
私はそのノートにペンを走らせて斉藤さんに手渡す、そしてそれを読んだ斉藤さんはあの凶悪な笑みじゃなくて優しく落とすように微笑んだ。マスクしてるから残念ながら口元は見えなかったけれど目元が優しげに下がっている。

「(笑った……!) 」

バカみたいた感激してる私の喉に斉藤さんの指が伸びてきて労るように何度も何度も撫で上げた、その目が優しい光を宿していて何だかとても温かい気持ちになる。不意打ちの言葉も行動も嬉しい誤算だなんて思ってしまう。

私の喉が直ったのをきっかけに彼を下の名前で呼ぶようになり、非番の日に一緒に出掛けるようになるのはもう少しあとのお話。


"斉藤さんさえよろしければぜひお友達になってください!"
斉藤が時おりその一言を大切そうに指で撫でている事を名前はまだ知らない。
title by確かに恋だった それは甘い20題