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「#エロ」のBL小説を読む
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あ、て思った時にはもう遅かった。
頑張って真っ直ぐに進めていたはずの針は大きくその道を逸れて私の人差し指にぶっすり刺さる、チクリという小さな痛みとは裏腹に指先にはぷっくりと大きな血の玉が浮かんでいた。やっちゃったなこれ、やっちゃったよ。
隊士さんから預かったYシャツに血がついてないことを確認して一度繕い物を置いた、絆創膏どこだっけ、そもそも私絆創膏買ってたっけ。なんて考えながらじっと指先を見つめていたのが悪かったのかクラリ目眩が襲った、血を見るのが苦手とかそんなではないんだけれど。

「なんだ、怪我したのかィ」
「はいちょっと、……って沖田さん?」
「どんくせーな」

いつのまに私の部屋に入ってきたのか、頭にいつものアイマスクをつけた沖田さんが私の手を掴んで傷口を凝視していた。女中の部屋には入るべからずって局中法度にあったはずなんだけどそんなルールじゃ彼を縛る力なんてないらしい、現に沖田さんは週2のペースで私の部屋にやってくる。

「料理も洗濯もこなすくせに裁縫は苦手なんだねィ」
「…………」
「断りゃ良かったのによ」
「頼まれたら断るのも申し訳なくて……」
「自分の指縫ってちゃ世話ねェな」
「返す言葉もございません」

どんくさい、とか思われたくなかったのに。
皆さんには何でもこなす人だと思われてるみたいだから、何でもこなしたくて頑張ってみたんだけど裏目に出た。むしろ自分の無様な姿をさらしただけだった、情けないとこも傷口も隠したくて絆創膏を探すけど見つからない。この間山崎さんに渡したので最後だったのかな。

「おい、手出しな」
「え?」
「いいから」

おずおずと沖田さんの前に手を差し出せば、沖田さんは隊服のポケットに手を突っ込んでごそごそとまさぐり始め、やがて何かを取り出すと片手で器用に外紙を向いて私の人指し指を手でそっと掴んだ。
そしてポケットから出した物、絆創膏をペタリと貼ってくれた。

「…………あ」
「こないだ山崎からパクっといて良かったぜィ」
「……………………」

もしかしたら私の絆創膏が帰ってきただけかもしれない。というか沖田さんは討ち入りに行っても滅多に怪我して帰ってこないんだから絆創膏なんて必要ないんじゃないかな……。

「ありがとうは?」
「……あ、ありがとうございます」
「それにしてもほっそい指ですねィ」
「!」
「折っちまいそうでィ」
「!!」

物騒な事良いながら指を絡めてくる沖田さん、可愛い顔をしていてもさすが刀を振り回しているだけあって手はしっかりしていて手のひらは少しごつごつしてる。でもやっぱり、綺麗な手だ。
しばらくそうして手を繋いでいたら、外から土方さんの沖田さんを呼ぶ怒号が聞こえてきた。もしかしなくてもこの人仕事をサボっているな。

「ちっ、うるせェ奴でさァ」
「仕事はしないと」
「んじゃ戻りますかねィ」
「頑張ってください」
「あ、絆創膏取り替えるときは呼んでくだせェ。次はもっと可愛い柄用意しといてやらァ」
「!!」

よく分からないけど、去り際に絆創膏を貼った指先にキスされた。熱を帯びる指先、傷に響く。
……今ちょっと、ちょっとだけ裁縫苦手で良かったかもなんて思ってしまった。

title by確かに恋だった それは甘い20題