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※幸福恐怖症の番外編のつもりですが、読んでいなくても大丈夫です。

年越し、なんて行事が真選組でも行われている事にびっくりした。そりゃあ年中無休で働いている私達にも休憩は欲しいけれどこんなに騒いでも大丈夫なんだろうか、急に通報とか来ても対処出来るのか不安だ。ちびちび1人でオードブルなるものをつついていたらトス、と誰かが隣に来る。

「斉藤隊長」
「......」
「...ああ、隊長がご迷惑を......」

沖田隊長は強くないくせに飲みたがる、というか自分が弱いということを自覚していなさそうだ。今も鉄之助くんや原田隊長に絡み酒をしている、原田隊長もう顔というか脳天まで真っ赤だけど大丈夫?死なない?
斉藤隊長は水差しをとるとコップを引き寄せてつごうとする、が...

「隊長!斉藤隊長外れてます!コップこっち!!」

手元がおぼつかないのかドバドバとテーブルに零してしまう。正気にかえってバッと水差しを横から縦に戻すが手を滑らせて水差しは宙を舞い...

「あ」
「!」
「ぎゃぁぁ!背中に水差しがぁぁぁ!!」

そのまま重力に従って落ちた水差しは油断していた近藤さんの背中を直撃した。まぁ、火照った体には丁度いいだろうと言うことで地面にめり込まんばかりに頭を下げて土下座している斉藤隊長の頭の上にそっとおしぼりを置いておく。...あ、原田隊長潰れた。
倒れていく大きな体を見ていたら、顔を赤くしている沖田隊長がこちらをみる。ニヤリと唇を釣り上げている隊長は何よりもホラーだった。

「...名字〜」
「(やべ)」

名指しされた、もう逃げられない。
一升瓶片手に近付いてくる沖田隊長の足元はやっぱり覚束無い。恐怖を抱きつつもハラハラしながら見ていたら案の定隊長は誰かにつまづいて体勢を崩した。

「あ」
「何してるんですか...!」

思わず手を伸ばしてその体を支えるが何故か隊長は体の力を抜いて全体重を掛けてくる、重い重い重い!

「ちょ、隊長、ちゃんと力入れて立ってください!」
「眠いんでィ...」
「重いぃぃぃ...!ていうかせめてその一升瓶を離せぇぇ...!!」
「あー無理無理」

そもそも成人していないとはいえ青年を抱えることは無理だ、ぐらりと傾く体をそのままに畳の衝撃を待っていたら誰かが背中に手を回して沖田隊長ごと支えてくれた。

「......えっ」
「え、何その反応」
「まさかの山崎さんだった事に驚いてます」
「うん、せめてもう少し包み隠して欲しかった」
「すみません無理ですそんな余裕無いです重い重い重い」
「待ってちょっと名前ちゃんまで力抜いたら俺も無理!」

仕方なく足を踏ん張って体勢を立て直すと沖田隊長はむにゃむにゃ言いながらすり、と頬を寄せてきた。何この生き物。山崎さんに支えて貰いながら座り直すと沖田隊長はズリズリと体を滑らせて私の腰に腕を回す。

「隊長、潰れちゃった?」
「出来ればもっと早くに潰れて欲しかったですね...」
「大丈夫?重くない?」
「さっきよりマシですし無理矢理離そうとしたら腰へし折られそうなので」
「...うん。名前ちゃんちゃんと食べてる?」
「さっきまで食べてました」

じゃあ何か取ってくるよ、と山崎さんは再び立ち上がる。とりあえず手近にあった唐揚げを摘みながら周りの様子を見ていたら、ハンカチを噛んでこちらを見ている神山さんと目が合ったのでとりあえず逸らしておいた。何あの人怖い。1番隊怖い。私が動く度に沖田隊長も身動きをするから柔らかい髪がくすぐったい。

「ったく、こんな所で寝こけやがって」
「...副長」

バサりと上着を隊長に掛けたのはさっきまで外回りをしていた副長だ、顔や指先は真っ赤なのに上着を沖田隊長に掛けてしまうあたりこの人は身内に甘い。気付いているのであろうか。

「寒そうですね、外」
「寒ィに決まってんだろ。ったくこんなあったけぇ所でぬくぬくしやがってよ」
「率先して楽しんでるのは局長なので許してください」
「また脱いでんのかあの人...」
「さっき斉藤隊長が水差しを投げてしまったんですよ」
「...酔ってたのか?」
「あと沖田隊長が潰れて転びそうになってました」
「だろうな...」

それから、と話を続けようとすると頬を冷たい手で包まれた。
ひぇ!冷たい!!と無様な声をあげる私を見て副長は声を上げて笑う。

「変な声」
「そんな冷たい手を当てるなんて正気ですか!」
「そこまで言うか」
「何なんですかもう...」
「お前は楽しいのか?」
「?」
「この宴会」
「楽しいですよ」

こんな風に盛り上がるのは初めてだ。
楽しいに決まってる、脱いでいる人がいようと水差しをぶん投げる人がいようと酔っ払って倒れ込む人がいようと、こんなうるさくて楽しい空間は、初めてだ。

「来年も、こうやって年越ししたい、です」

私の小さなつぶやきに副長はふ、と笑う。

「野郎が騒いで副長は外の見回り、ってか?」
「戻ってこれるなら私も見回り行きますよ」
「じゃあそん時は総悟もだな」
「そうですね」

床に置いている手にそっと副長の手が近付いて上に重なった。だけどきゅ、と小指だけが絡めとられる。内緒の約束。気恥しいけどとても嬉しい。

「...ゆーびきった」
「ゲボロシャァァァァ!!!」

私が小さく呟いたのと局長が盛大にリバースしたのは同時だった。

(近藤さんんん!!?)
(山崎ィィ!汚れ仕事はお前の仕事だろ!!)
(意味違いますよあれほんとの汚物じゃないですか!!)
(あ、原田さんもらいゲロしそうですよ)
(耐えろもしくは外に行けぇぇぇ!!!)

title by確かに恋だった それは甘い20題