「おいしくない」
真っ黒なコーヒーを飲んで彼女の発した最初の一言がこれだった。そりゃそうだろうよ、と短く返して俺はいつものいちご牛乳を喉の奥に流し込んだ。この甘さがうまいんだよな。
「お前俺に次ぐ甘党の癖に何で格好つけてコーヒーなんて飲んでんだよ、それは砂糖と牛乳をたっぷり入れて飲む飲み物なんだよ」
「銀さんのそれはコーヒーじゃなくてコーヒー牛乳」
「うるせー同じようなもんだろ」
「どこをどうとっても一緒じゃありません」
そう言って名前はまたコーヒーを1口飲んでは顔をしかめる。
「やめとけよ、お前じゃ大人の女にはなれねぇから」
「大人になっても甘いもの飲んでる銀さんにはいわれたくない!」
「うるせー甘いものは世界を救うんだよ」
「糖尿病予備軍じゃん」
「いずれはお前もそうなるんだよ、諦めて己の運命を受け入れろ」
「やだ」
ムスッとした顔をして頑なにコーヒーを飲み続ける名前、しばらくしてさすがにダウンしたのか半分も飲んでいないそれを置いて「あのね、」と口を開く。
「土方さんは、甘いもの好きな女の子より、コーヒーとかちゃんと飲める人の方が好みなのかな、って」
「……」
腹立つ名前が1番嫌なタイミングで出やがった。
手の中にあるパックがべこりとへこむ、中身が飛び出さなかっただけ良しとしよう。ああ、どおりで最近タバコの銘柄を調べだしたりマヨネーズの料理が増えた訳だ。あの警察のためかよ。
「……お前苦いもん嫌いなくせによくやるよな」
「子供っぽいって思われたくないし」
「ならまずはひよこついたパンツはくのやめろや」
「!?いつ見たの!?」
「え、ほんとにはいてんの?」
「銀さんの変態!!最低!!」
「墓穴ほったのお前だろーが!!」
ああ、何だかおもしろくない。
目の前にいるのは俺なのに。コーヒー買うのやめるかな。
「そんなマヨネーズ侍のために苦いもん飲むぐらいなら、」
俺にしとけば。
なんて、かっこいい台詞言えるわけもなく。
持っていた甘さ控えめのチョコを口にほおり投げる。チョコだと気付いた名前はへにゃりと笑って美味しい、と呟いた。
「……微糖から始めれば」
苦い顔ばっかりさせるそいつより、甘やかせる自信ならあるのに。
title by確かに恋だった それは甘い20題