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松下村院と呼ばれるこの場所は、女子男子を分けることなくそれぞれの部屋を割り当てている。言うなれば来たもの順に入れられるため、俺は1階の1番奥に入れられているし高杉とヅラの部屋は隣同士、らびは2階の部屋が割りあてられていた。
夜も耽るとそれぞれ自分の部屋に戻っていくため、共有のスペースはガランとしており、昼間のような賑やかさはない。俺もさっさと部屋に戻って寝ようと思い早足に廊下を歩いていたが、ふと共有スペースのソファに1人座っている背中を見つけて足を止めてしまった。あの、後ろ姿は。

「…らび?」

窓から差し込む月の光に髪が反射してひどく綺麗で、消えてしまいそうに見えてその後ろ姿に近づいていく。

「どうした、何かあったのか」
「……ううん」

否定の言葉を口にするもその声に元気はなく、今にも消えてしまいそうなほど小さいものだった。
このまま1人にすることはさすがに出来ないので隣に腰を下ろしてその細い肩を自分の方へと引き寄せて頭を自分の方に持たれさせてやる。初夏だと言うのに彼女の体温はすっかり冷たくなってしまっていて、昼間のような温かさは失われていた。

「…怖い夢でも見たのか」
「………わかんない、けど、いつもの夢」
「………」
「だから、少し頭痛くて」

らびは小さい頃からある夢を見ていた。
辰馬を含めた俺達4人が今とは全く違う格好をして笑っている姿、でもその後すぐに血で染まって倒れ伏してしまっている中で彼女は1人立ち尽くしている夢。これを初めて聞いた時にまじか、と思ったのは記憶に新しい。
彼女は何もかもを忘れている訳では無いのかもしれない、ただ無意識に蓋をしているだけなのかもしれない。でもそれは無理やりこじ開けていいものでは決してなくて、むしろ思い出さないままの方が良いことなのかもしれない。

「大丈夫、らび、大丈夫だから」
「…ん」

まだ少し痛むのであろう頭を撫でて、落とすように何度もそう呟く。
遠い昔、彼女が眠れない日に俺に寄り添いながらそうしてくれたように。

「…あん時とは逆だな」
「……?」
「いや、こっちの話」

彼女がくれたものを、今ここで少しずつ返せるならば願ったり叶ったりだ。
こっそりとつむじに唇を落として彼女の頭の痛みが引くまで隣にいようと決めた。

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