テニプリshort | ナノ
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「仁王くん返したまえ!」
「...プリッ」

廊下に響いた声に思わず顔を更衣室から出してしまう。もう着替えは終わっているから良いんだけど。半開きになっているドアから見えるのはめずらしく眉をつり上げている我がクラスの柳生くんと、彼と同じテニス部の仁王雅治くんだった。どうやら仁王くんが柳生くんのネクタイを取ったらしく、彼の胸元は少し開いている。閉じるの、忘れてるんだろうな。柳生くんは私が様子を見ていることに気付くと、少し慌てた様子で口を閉じて中途半端に上げていたてもあたふたとしまった。

「柳生くん...どうしたの?」
「あ、いえ、その...ネクタイを取られてしまっていて...」
「うん」
「今返していただいたところで...」
「うん」
「に、仁王くん君からも説明をしたま......」

柳生くんが振り返って先に仁王くんはおらず、ひらりと銀色の尻尾がドアの向こうに消えていく。それを見た柳生くんは紳士らしからぬ怒りマークをほほに浮かべて手にしているネクタイを握りしめた。仁王くんが絡むと柳生くんも子供っぽくなるなぁなんて思いながら少しシワになってしまったネクタイを彼の手からとり、ピンと伸ばす。

「?...名前さん?」
「シワになっちゃうよ」
「...!すみませんこんな見苦しい格好で...!!」

そこでようやく自分の姿に気づいたのか柳生くんは慌ててボタンを閉め始めた。少し空いてるのもワイルドでカッコイイんだけどな。ボタンを閉め終わった柳生くんは少し困った様子で私の持つネクタイを見ている、そうだよね、締めなきゃね。私は持っているネクタイを渡さずにしゅるりと彼の首にまわした。驚く柳生くんを見ないふりして見様見真似でネクタイの形を作っていく。

「...!!!」
「ネクタイ締めるのって、」
「は、はい...」
「夢だよね」
「......」
「こんな形で叶っちゃた」

そう言ってきゅ、と結んだネクタイはいつも柳生くんがしているものより歪んでいていびつで彼に似つかわしいものではなかった。初めてだし上出来のほうだなぁなんて苦笑してしまう。

「ごめんね、ほどいていいよ、やってみたかっただけだから」
「...いいえ」

柳生くんの手がまだネクタイにかかっている私の手に触れて、ゆるく握りしめた。驚いて離そうとするがそれを拒むように少し力が入る。じわじわと重なっている手から侵食してくる熱は私の顔へと移っていった。

「や、柳生くん...?」
「せっかくあなたが結んでくれたんです。...このままで過ごさせてください」

そう言って照れたような笑顔を浮かべる柳生くんの素の顔を初めて見た気がした。